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まるで日本攻略のための「教則本」。
ラグビーW杯直前の南ア戦は正解?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/09/09 20:00
南アフリカはFBやWTBに向けてのハイパントを多用した。日本はボール支配率などでは上回ったものの7-41で敗れた。
キックは攻撃の「お膳立て」?
彼にとってラグビーのアタックとは、パスを主体としたものなのだなと思った。自分なりに噛み砕いていくと、ジェイミーが就任時から提唱してきたキックによって生み出す混沌、「アンストラクチャー」とは、あくまで攻めに至るまでの「お膳立て」なのだな、と。
そしてこの3年間、お膳立てをするための約束事の徹底に多くの時間を割いてきた。
南アフリカ戦で心配になったのは、トライを取る仕留めのアタックについて、十分な仕込みがなされているのか、ということである。前半、トライ機を得ながらもパスからのクラッシュしか攻め手がなく、トライを取り切れない。
W杯を前に手の内を隠したのはいうまでもないが、さてさて、ジェイミーが定義しているであろう「アタック」の整備については、フタを開けてみなければ分からない。
もちろん、その前にハイボール対策の見直しは急務である。格下のロシアには、いいキッカーがいる。決して油断はできない。
「自信を取り戻すことが大事」
ふたりの負傷者と、明確な課題が浮かび上がった試合。試合後の会見で、主将のリーチ マイケルは健気にこう言った。
「本当にこの試合をやってよかったと思います。改めて世界の強さ、ティア1の圧力が分かりました。ジャパンのディテールの精度が落ちた時にやられたので、そこを修正していきたい。このチームは修正能力が高いから、大丈夫」
主将としては、こう答えるしかないだろうな、と思った。そしてリーチはこう付け加えた。
「残された2週間で、自信を取り戻すことが大事」
日本代表にとって、この時期に南アフリカとの試合を組んだのが正解だったのか、それとも、そうではなかったのか。
その答えは、W杯が終わってみなければ分からない。この1カ月半は極めて順調だっただけに、課題が浮かび上がったことを「吉」とするしかないだろう。
ああ、それにしても対戦成績を五分に戻されたのは、なんとも悔しくて仕方がない。