ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
二軍から復帰の戸柱恭孝。屈辱的な
状況を支えた家族と野球への思い。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKyodo News
posted2019/09/01 09:00
8月29日のヤクルト戦で7回1死満塁のピンチを併殺で切り抜けベンチに戻る戸柱(左)とピッチャーの石田。
データは8割、フィーリングが2割。
問題はリード面にあったとラミレス監督は語る。
「そこは戸柱に数字を見せてはっきりと伝えました。もっとクリエイティヴに投球パターンを考えなければいけない、と。データは8割、フィーリングが2割。キャッチャーは人が思うほど簡単ではないし、複雑なポジション。戸柱には才能がある。もっと打者を読み、理解することができれば、いいキャッチャーになれるし、相乗効果でピッチャーの力も向上する」
現役時代、ピッチャーよりもキャッチャーを分析して勝負してきたというラミレス監督の要求は高い。
暗闇のなかを無灯火で進むようなもの。
また鶴岡一成バッテリーコーチもファームへ行く戸柱に対し同様のことを伝えている。
「データだけではなく、いろんな状況を頭に入れて野球をやってきてくれと言いました。しっかり自分の“感性”を磨いてきて欲しい。チャンスはまた必ずあるはずだからと」
戸柱のリードは、ある意味データに基づいた手堅い配球と言っていい。慎重で堅実だ。だがそれでは年数を重ねてしまえば相手チームに容易に研究されてしまう。戸柱もその点に関しては認めている。
「今まではとにかく安全に安全にという気持ちで、ある程度失点はしますけどデータ通りにやればゲームは作れるかなという感覚だったんです。データがすべてというか、この状況ならこのパターンだなというのは確立されていたんです」
どうすれば「感性を磨く」ことができるのか。その作業は、データ化はもちろん言語化できるものでもなく、暗闇のなかを無灯火で進むようなものだろう。そんな状況において手を差し伸べたのが万永貴司二軍監督だった。ファームでマスクをかぶる戸柱に一切の要求はせず「好きにやっていいぞ」と背中を押した。