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凡戦でも錦織圭の攻めは魅力的だ。
教科書に載せたい手堅さ、力強さ。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2019/08/29 11:50
相手に2度も4ゲーム連取を許すなど少々不安定だったが、しっかりと勝ち切るあたりは錦織圭らしい。
「気に入っている」という感覚。
ポジティブな面に話題を移そう。錦織は試合から得た「好感触」について、こう語っている。
「アップダウンはあるが、いいときのプレーはすごく気に入っているというか、いいテニスができていると思う。カナダ(モントリオール)とシンシナティで、ちょっと(感覚が)合わない感じがあったのに比べれば、断然いい」
無理やりポジティブな要素を引っ張り出したのではないことが、口調で分かる。「気に入っている」という言葉は、皮膚感覚で出てきたものだろう。いいテニスは確かに随所にあった。
一例が、第3セット4−3からのサービスゲーム、相手のブレークポイントで成功させたサーブ&ボレーだ。ブレークを許せば第2セットの二の舞になる。その窮地でのサーブ&ボレーは会心の戦術選択だろう。
次のポイントもグラウンドストロークで積極的に攻め、相手のミスを誘った。ピンチを乗り越えた錦織のプレーにリズムが生まれ、ここから一気に5ゲームを連取した。
将棋のように追い詰め、決める。
グラウンドストロークの攻めも厳しかった。例えばこんな理詰めの攻撃があった——クラーンの苦手なバックハンドにボールを集め、苦しまぎれにストレートに返してきたのをバックハンドでディープクロスに打ち込む。
返ってきたチャンスボールを浅いクロスにたたき込み、これがウィナーに——少しも無理をせず、将棋のように相手を追い詰め、確実に決めた。テニスの教科書に載せたいような、手堅く、しかも力強い攻撃だった。
第2、第4セットの試合運びのまずさやサーブの成功率の低さに目を向ければ、確かに凡戦。しかし、凡戦、苦戦という色眼鏡を外して見れば、いいプレーがたくさんあったことに気づかされる。
当の錦織は、試合後の記者会見でポジティブな面に目を向けた。
「試合が長くなったことで、よかった面もある。もちろんストレートで、1、2時間で勝てればもっと良かったが、長くプレーできたことは、特に1回戦、2回戦では、いい面もある」