スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
麹町中が3年間で育てる「当事者性」。
運動会の伝統をやめた感動的な経緯。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/08/20 08:00
東京では私立全盛の中学受験ブームが続くが、公立の麹町中学を第1志望とする子供も着実に増えている。
行事や制度も、生徒が当事者として変える。
麹町中の特色は、あらゆる民間企業との連携を図っていることだ。
たとえば、校内にある「購買局」は監査法人、「EY Japan」に運営のノウハウをサポートしてもらっている。教員も民間企業と協同して授業計画を立案し、生徒たちもたくさんの大人と関わることで社会性を身につけていく。
工藤校長の話を聞いていくと、麹町中の教育目標が単なるお題目ではないことが分かってくる。
「自律」=自分をコントロールする能力
「尊重」=多様な集団の中で協働できる能力
「創造」=言語や情報を使いこなす能力
中学受験で自信を失った13歳の生徒たちが自らをコントロールする力を発見し、その過程で他者にも寛容になる。そのうえで、創造性を身につける。リセット期間が終わると、生徒たちは主体的に課題を解決する「当事者意識」を持つフェーズへと移行するのだ。
定期テスト、宿題が廃止された昨年度は、体育祭の運営も生徒の発案で変わった。競争が主目的ではなく、「みんなにとって楽しめるもの」を最上位概念として。
「勝つためにクラスの団結を誇ったり、忍耐や試練を強いるものは必要ないことを、生徒が理解していますから、自ずとプログラムも変わってきます。たとえ、障害があったとしても楽しめるプログラムを作る。
その一方で、運動能力を発揮したい人、体育自体に苦手意識のある子もいる。企画委員はいろいろと悩んだことと思います」
10%の反対のために、伝統の種目を廃止。
2019年の春、麹町中を卒業した生徒会長は、卒業式でこんな言葉を残している。
「全員リレーは例年、3年生全員でリレーをする伝統的な種目でした……(中略)……どうするか悩んだ挙句、3年生にアンケートをすることにしました。『あなたは全員リレーに賛成ですか、反対ですか』というアンケートです。
もし、賛成が100%だったなら、僕たちは全員リレーをやったと思います。
でも、結果は違いました。10%、約15人は反対と答えました」
企画委員は10%の意見を尊重し、全員リレーを行わず、違う種目を実施する。
「多数決で決めるべきではないと、そう決めました」
という言葉は感動的ですらある。