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日本中が注目する麹町中学の改革。
工藤校長が語る、教育の最上位目標。
posted2019/08/20 07:55
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Hideki Sugiyama
千代田区にある麹町中学。
国会議事堂からも近いこの学校は、かつては「麹町中→日比谷高→東大」という戦後社会のエリートコースのイメージがあった。そして現在は工藤勇一校長の学校改革が大きな注目を集めている。
おそらくは社会意識が高く、教育への投資も惜しまない保護者が顔をそろえ、生徒の学力レベルも高いのだろう……そう勝手に想像していたが、内実はまったく違うと工藤校長は語る。
「毎年およそ150人が入学してくる中には、親御さんの希望が強く、区域外から引っ越しをしてまで入学してきた生徒が10人から20人くらいはたしかにいます。しかし、今年の入学生を例に挙げれば、およそ110人の生徒は中学受験で第1希望の学校に入れず、第2希望以下で麹町中に入学してきた生徒たちです」
この数字には驚いた。
麹町中が、受験を失敗した生徒が大半だったとは……。
成功体験がない子どもたちの特徴。
工藤校長によれば、中学受験で成功体験を得られなかった生徒たちは、「負」のものを引きずっている場合が多いという。
「夜の10時、11時まで勉強していたのに成功体験が得られなかったわけですから、勉強に疲れ、『自分はダメなんだ』と感じている生徒が多いように思います。しかも小学校時代に塾に通ったり受験校を決めるにしても自分で決定していなくて、主体性を失ってしまった子どもも多いです。
手をかけられすぎた子どもは、その結果、与えられるものに対して不満を感じ、親、先生、周りの子どもたちに対して批判をするのが癖になっています。このような生徒が多いので、中学1年の間は『リセット作業』に費やされます」
劣等感を抱えて入ってきた1年生には、なにかと対立軸を作り出し、人を攻撃することで自分を守ろうとする生徒が多いという。
「正直なところ、1年生の間は生徒同士で傷つけあうこともありますね」
おそらく、生徒の親も傷ついているはずだ。