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聖光学院が戦後最長13年連続甲子園。
「弱いチームが弱さを認めて勝った」 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2019/08/01 11:40

聖光学院が戦後最長13年連続甲子園。「弱いチームが弱さを認めて勝った」<Number Web> photograph by Genki Taguchi

13年連続甲子園出場を決め、宙を舞った聖光学院・斎藤監督。

控え選手から辛辣な言葉が飛ぶ。

「どうせレギュラーだから、とか思ってんじゃねぇのかよ!」

 選手間ミーティングで、控え選手からの辛辣な言葉が飛ぶ。春はベンチ外だった阿部拓巳が、激論の裏側を真摯に述べる。

「あの頃のチームは、強豪校と練習試合をしても、『自分たちより力は下だと思う』とか平気で言っていたし、結局は春の大会も力を出し惜しみしていたというか。仲間を信じるんじゃなくて、個人に頼っているように見えました。全然、謙虚じゃありませんでした。だから、『一人ひとり謙虚さを大事にしていこう。41人の3年生を信じて戦っていこう』っていう話をずっとしてきました」

 春に東日本国際大附昌平に敗れた直後、グラウンドに突っ伏して泣き崩れた主将の清水正義は、阿部たち控え選手の訴えに対し、必死に耳を傾けようと努めるようになった。

「午後からうちで試合やりませんか?」

「それまでは、キャプテンとして自分の意見を押し通すだけでした。ミーティングで控え選手とかみんなの考えを聞くことで、一歩引いて物事を考えられるようになったというか。自分も他のメンバーも、プライドが高かったんです。そんなの一時的なもので、プライドを引きずって一生後悔するくらいなら、『俺たちは弱い』『勝つことが全てじゃない』と認めないといけないんだなって、自覚できたことが大きかったです」

 斎藤が悩み、選手たちが野球から離れミーティングを重ねる日々が2週間ほど続いた。

 それは、斎藤たち指導者と選手を繋ぐ、「恵みの雨」だった。6月も中旬に差し掛かった休日のことだ。聖光学院のグラウンドで予定されていた関東の強豪校との練習試合が雨で中止となり、斎藤は懇意にしている東北の高校の監督に、片っ端から電話を掛けた。

「午後からうちで試合やりませんか?」

 急な呼びかけだったが3校が申し出を受けてくれた。「ナイターで試合やったもんね。こんなの滅多にないよ」。自分の無茶ぶりに自嘲しながらも、斎藤はここにチームの成長の「確信」を感じ取った。雨ニモマケズ。斎藤は、自然に抗った。

【次ページ】 「静」から「動」に変わった瞬間。

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