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カープファンに恋する情熱を学べ。
懐かしくて新しい「実家」のよう。
text by
西澤千央Chihiro Nishizawa
photograph byAtsushi Kondo
posted2020/07/13 11:30
試合開催日、広島駅からマツダスタジアムに向かうカープロードはファンで埋まる。この日々が戻るのはいつになるだろうか。
増えるファン、減る応援団。
「家族」を守るために奮聞する人がここにもいる。全国広島東洋カープ私設応援団連盟、その現会長を務める苅部安朗さん(44)。3代目にして初の広島“非”在住の会長だ。
「カープファンに学ぶという企画でお話を伺いたい」と言う私をこう制した。
「カープファンは今たくさんの批判を受けています。学べるところはあるでしょうか」
現在連盟に加盟する団体は23、団員は約250名。カープファンが増えるのと反比例するように団員数は減っているという。背景にあるのは2つの「時代の流れ」だ。
ひとつは自由に応援したいという風潮。
「みんながハイタッチして喜んでるときに、僕ら団員は一番冷静でいなければいけない。次の応援が控えてるので。入ってみたら『ああ、そういう世界なんだ』ってがっかりしちゃう人も多いんだと思う」
もうひとつは、自由に応援できないというジレンマ。
「今は応援団を取り巻く様々なルールがある。許可証がないとそもそも応援できなかったり、細かいところだとトランペットの本数、旗の数まで規定があったり。チケット代も高騰して、手に入れづらくなってますしね。応援団は毎試合行ってなんぼなので、それも難しいところ」
カープ好きが集まり自然発生的に誕生した応援団も、時代の流れの中で「半オフィシャル化」を余儀無くされる。全く与り知らぬ誹謗中傷が、SNSを通じて連盟会長にぶつけられることもしばしばだという。
「僕は今44歳ですけど、今は僕らの世代が各球団残ってる。自分たちが辞めたら『応援』という文化が終わってしまう、半ば意地だけで皆さん続けてると思います」
取材をしながら「芯のブレない、いい声だなぁ」と思ったが、カープファンの友だちが「苅部さんはカリスマだよ。あの人の地声はスタジアムのどこにいても聞こえる」と話していたのを思い出した。
「チームが弱い中で、外野を満員にするっていうのはすごく難しい。だから喜怒哀楽のある応援を心がけていました。優勝する日までみんなで頑張っていきましょうよ! って呼びかけて、カープの応援は楽しいよね、負けちゃったけど来てよかったよね、と言ってもらえるように」
応援団や応援歌に対するあれこれが世間を騒がせているが、「今は過渡期です」と静かに語る苅部さんの言葉は重い。
「僕自身も家族が出来て一時期休みましたが、またやろうと思ったのも子どもに応援団姿を見せたい、応援団という“家族”を守りたい、という思いなんです」
やっぱりカープがうらやましい。
私は「友」の本当の顔を知らなかった。急に人気が出て、突然遠くに行ってしまったと思っていた。だけどカープファンはずっと、温かくて、優しいままだった。それは居心地のいい実家みたい。「ただいま」と言えば、どんな時でも迎え入れてくれる家族。いつまでも子ども扱いしてくるご近所さん、西日さす子ども部屋、夕涼みする縁側、ちょっと怖い和式トイレ……この「実家」を、ある人は懐かしく、ある人は新しく思うのだろう。
そしてこの居心地の良さが、健全な自立を促すのだなと思った。実家が温かいからこそ、子どもは外に出て自分を試さなければと思う。選手のFAは罵声を浴びせながらも前向きなチャレンジととらえ、広島を離れた元ファンには帰る場所を用意しておく。そしてもし戻ってきたなら、なんだかんだでまた温かく迎えてくれる。
いいな、やっぱり私はカープがうらやましい。
(982号「カープファンに恋する情熱を学べ。」より)