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カープファンに恋する情熱を学べ。
懐かしくて新しい「実家」のよう。
posted2020/07/13 11:30
text by
西澤千央Chihiro Nishizawa
photograph by
Atsushi Kondo
ずっと友だちだと思ってた。テスト前「お前、勉強した?」「やばい、なんもやってねえ」って笑い合って、2人で赤点だったじゃん。マラソン大会で「たりいからテキトーにやろうぜ」「だよな」って、最後尾トコトコ走ってたじゃん。それがどういうことなのか。気づけば友の成績は学年トップ、マラソン大会はぶっちぎりで優勝。それだけじゃない。「彼女とか彼氏とかめんどくせえよな」って言い合ってたのに、今じゃどこ行ってもワーキャーのモテモテだ。
これはカープである。ベイスターズにとっての、カープである。
いつの間にか遠くに行ってしまった「友」、カープ。勝手に友だちだと思っていたカープファンは、今何を思い、どんな未来を見ているのだろうか。教えてほしい、それはいつかベイスターズファンが辿るかもしれない道だから。
広島に来るのは、3年ぶりだ。ベイスターズの初めてのCS進出を見守るためにあの日降り立った広島駅と、今新幹線の改札を抜けて見える光景は全くの別物で驚く。2025年には地上20階建て、延べ床面積は約11万1000平方mにのぼる巨大な駅ビルも完成するらしい。駅前にこんな高層マンションが……え、蔦屋家電まであるじゃん!
かつての「友」のリア充っぷリを見せつけられて、私は完全に気後れしていた。キョロキョロしながら路面電車に乗り、最初の目的地へ。
「いつになったら優勝するんだろうか」
1980年代、カープ情報を発信し続けてきた雑誌『月刊カープファン』。元プロ野球選手、故・橋本敬包氏が引退後に創刊したこの雑誌は、休刊後も『Cafe&Restaurant カープファン』として市内中心部にその名を残している。
「このビルの上の階に編集部があって、1階を喫茶店にしたんです」
こう話すのはマダムの橋本紀子さん。
「一番忙しかった時で、25人くらい編集部員の方がいらして」というが、これはNumber編集部よりずっと多い。ファン垂涎のグッズや写真が所狭しと飾られる店内で、私が一番気になったのは入口に置かれたノートだった。この聖地を訪れたカープファンたちが各々の思いを記念に書き残している。
〈いつになったら優勝するんだろうか〉
〈早く優勝するところが見たい〉
カープがまだベイスターズの友だった頃、'08年に書かれた文字に胸が熱くなる。この人に知らせたい。もうすぐびっくりするくらい強くなって、3連覇するんだよって(たぶん知ってる)。