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錦織圭、フェデラー戦の勝機と自信。
「対等とは思っていないですけど」
posted2019/07/10 11:40
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Hiromasa Mano
いぶし銀、職人肌、くせ者……。ミハイル・ククシュキンとはそういうタイプの代表格だ。特別な武器はない。ファーストサーブの平均速度は、ジョン・イスナーを破った2回戦では時速167キロ、錦織圭とのこの4回戦では上げてきたが、それでも179キロだった。錦織もこの相手には過去8戦8勝。ミスは少なく、リターンはうまいが、破壊力はなく、世界ランキング58位は一見、恐れるに足らぬ選手とも見える。
しかし、第1セットの序盤から、観客はククシュキンの怖さに気づいただろう。
定規で引いたようなフラットの低い弾道が、ことごとくコートに収まる。勢いのない無回転のボールも交じるが、高く弾まない分、錦織は攻撃の機会を見つけられない。力んで強打すれば、高速のカウンターパンチが返ってきた。無難につなごうとすれば、バックハンドのダウン・ザ・ラインが飛んできた。
試合開始当初は晴れ間ものぞいたが、次第に雲が厚くなり、冷たい風が吹いた。体調を崩した観客の手当で試合が中断する一幕もあった。こういうときは、何かが起きる。
ククシュキンの魔球に静まり返る観客。
錦織は「我慢が必要だった」と話している。
「バックハンドのダウン・ザ・ラインなど、いつも(の相手)と違う感じのボールが来るので、対応が難しかった。ほとんどバウンドしなかったり、止まったりもする。攻めないといけないと分かっていたが、低いボールだったのでウィナーが取れなかった」
第9シードのイスナーや第33シードのヤンレナルト・シュトルフらを苦しめたのが、これらの魔球だった。
第2セットを奪ったククシュキンがペースを握ったかに見えた。息詰まるようなラリーに、スタンドは水を打ったように静まりかえる。スライスのラリーはネットすれすれをボールが通過し、見ていてヒヤヒヤする。いつククシュキンのカウンターパンチが来るか、その怖さは、サスペンス映画を見ているようだった。