菊池雄星の「Stand Up」BACK NUMBER
菊池雄星が語る“100球”の理由。
「球数を投げる時期は20代半ば」
text by
菊池雄星Yusei Kikuchi
photograph byAFLO
posted2019/07/05 11:50
今では球界屈指の進歩派である菊池雄星だが、高校時代はやはり甲子園こそすべてだと思ったという。
トレーニングすら100回なら、実戦は。
100回という制限の中でどれだけ「速く、力強く」動作ができるかがプライオメトリック・トレーニングの基礎になるわけですが、逆に言えば、スピードが落ちてしまった時点でそれはトレーニングにはならないということでもあります。
さらにプライオメトリック・トレーニングは、筋肉だけでなく腱、靭帯、関節に大きな負担がかかります。つまり「全力で」「正しく」やろうとした時、十分な筋力がなかったり動作が適切でなかったりすれば、筋肉だけでなく関節の故障につながる可能性が極めて高くなるのです。
これをピッチングにつなげて話を戻すと、ピッチング動作はまさに速く力強くという点で、筋肉、靭帯、腱、関節に負担がかかる動作です。
トレーニングでさえ100回を目処に止めるのですから、試合におけるピッチングではもっと負担が大きくなると考えるのが自然でしょう。100球を超えての投球は、筋肉だけでなく腱、靭帯、関節とも、単に無理をさせている状態になります。
投げた分だけ鍛えられるという性質のものではなく、純粋に損傷するという事です。それがもし、十分な筋力がなく投球動作(フォーム)が未熟な10代の選手だとしたら、関節障害が起きてもまったく不思議ではありません。
甲子園の炎天下も体には大問題。
また、甲子園は炎天下の中で試合を行いますが、高温下でのピッチングについても考えるべきことはあります。
そもそも人間の体は高温になる事を嫌います。高温になると神経機能が低下し、最悪の場合、脳機能の障害も起こるからです。なので体が高温化した場合、体は汗をかいて気化熱で体温を下げようとします。
当然ピッチングをすると体温が上がるので、汗をかきます。しかしそれが炎天下だったらどうなるでしょうか。汗をかいて体温を下げたいのに、炎天下では全く体温が下がりません。そうすると体は「それ以上体温を上げさせない」という反応をします。つまり、「体を動かなくさせる」という手段をとるんです。パフォーマンスはもちろん著しく下がります。
炎天下でピッチャーが100球を超えると、理論的には身体はもう動くはずがなく、あとは精神的なもので無理をするしか無くなります。それはそのまま、故障のリスクを背負うことでもあります。