サムライブルーの原材料BACK NUMBER
小林祐希はいつも「人ファースト」。
欧州でも代表でも起業でも同じ哲学。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byYuki Suenaga
posted2019/07/02 11:30
潰して、繋いで、飛び出す。小林祐希はクラブでも代表でも評価を受ける世界水準のマルチロールだ。
ボールを奪うには、技術より覚悟。
ボールを奪い切るコツは。
そう問うと、小林は「やるしかないということ」と一言。つまりコツよりも、覚悟こそが求められるのだと聞こえる。
彼は前のめりになって、ディフェンスするときのような鋭い目をつくった。
「もちろん自分の後ろに誰もいない状態でバーンと行くわけにはいかないですよ。状況を見て、行くべきときに必ず行き切る。中盤で相手の後ろ向きで縦に入ってくるボール、ここは行くべきところ。五分五分のボール、ここも行くべきところ。その状況下にあるときに止まらないことを意識しました。以前なら(相手の)2m手前で減速していたところを1m手前まで減速しないでやる」
彼は1人よがりでプレーしない。チームの状況が先にある。
あの退場シーンを、もう一度振り返ってもらうことにした。前半終了間際、ヘーレンフェーンは2-1とリードしているとはいえ、早々に1人少ない状況になっていた。相手陣営でゴールに向けたロングスローがクリアされ、そのセカンドボールに遅れて食らいつこうとした形だ。
「あのときひとりで相手3人を見ていて、1つ目のところでつぶし切るしかないと考えました。つぶさなかったなら、ドミノ状態でやられるだけ。つぶし切るか、ファウルで味方を守備に戻すしかない。それまではいい形でボールを奪えていて、たまたまアフター気味で相手の足に当たったように見えてしまった。ただ自分のなかで、あのプレーに関しては一切、悔いがないんです。あれくらいは毎試合やらなきゃいけないって思っていましたから」
結局、2人少ないチームは敗北を喫した。しかしながらあの状況では行き切るという自分との誓いをまっとうしたことが、後悔の念を寄せつけなかった。むしろ躊躇するほうが、自分の責任放棄だと考えているからだ。
久しぶりの代表でも小林らしさは健在。
責任感と、プレーの重みと、人のつながり。
オランダの地でそれらを強めていく彼は今年3月、久しぶりに日本代表に戻ってきた。6月のトリニダード・トバゴ戦、エルサルバドル戦でも引き続き招集されている。
先発のチャンスを得たエルサルバドル戦は磨いてきた守備でボールを奪い、縦パスのみならず中長距離のパスも正確であった。エゴを出さず、何よりチームがうまくいくように差配していた。
後半31分、空間の使い方に長けた彼らしいプレーがあった。
ペナルティーエリア手前、ゴール正面からやや左の位置から外側を走ってくる味方にパス出す素振りをしながら、対角線上でフリーになって待つ大迫勇也にフワリと浮かせたボールを送った。ゴールには至らなかったものの、小林の視野とアイデアが攻撃の幅を広げていたのは確かだった。