マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ドラ7の新人が交流戦の首位打者に。
スカウトはなぜ彼を低く評価したか。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/06/28 11:30
大卒とはいえ、ドラフト7位のルーキーがこの時期に一軍どころか主力に定着しているのは驚くべき事態だ。
打撃も守備も、地味だが超一流。
2死二、三塁のフルカウントから、ライトポールのわずか右へあわや……の大ファールで相手投手にドッと冷や汗をかかせたこともあって、勝負球のチェンジアップが足元に沈んでくるところを、あっさりレフトポール際にライナーの二塁打にしたのも見た。
アンダーハンドの内角寄りの速球を、左肩を止めておくようにして両腕を畳み込み、軸足のキックを効かせて神宮のレフト中段にライナーで持っていったバッティングなど「プロの技」だった。
そのわりに、上茶谷大河(現DeNA)、甲斐野央(現ソフトバンク)の剛腕エースたちがマウンドを降りると、スカウトたちがいっせいに席を立つ……そんな場面が何度もあった。
一、二塁間の打球をスライディングキャッチ、そのまま立ち上がって送球して刺したプレーも忘れられない。立ったまま捕球したら、送球がものすごく窮屈になる体勢だった。とっさに、自分が有利になる体の持っていき方ができていた。
盗塁を阻止する二塁送球がショートバウンドになって、それをバックハンドのグラブで吸収するように捕球すると、そのままタッチプレーに持ち込んでアウトにした「スーパープレー」もあった。
「あれっ、まだ残ってるじゃないか」
「足がそんなに速くないっす。守る場所も……肩も抜群ってほどじゃないし」
「飛び抜けたパワーとか、スイングスピードがあるわけじゃない。確かに器用さはあるけど、じゃあ何がいいんだ? ってなったときに、決め手が弱いんだよね」
そんな声が圧倒的だったから、実際、ドラフト会議でもいつまで経っても「中川圭太」の名前は挙げられず、
「あれっ、中川、まだ残ってるじゃないか……!」(球団関係者談)
と気づいて指名した時には、すでに会議は終盤の「7位」に及んでいた。