酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
日本で進行するフライボール革命。
本塁打は狙うからこそ増えたのだ。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2019/06/27 08:00
横浜で野球塾を経営する根鈴雄次。マイナーリーグでの経験を活かし、「ホームランの打ち方」を指導する。
ひたすらアッパースイングする野球塾。
「違うね、ホームランの打ちそこないが安打になるんだよ」そう言い放つ野球人がいる。
横浜で「根鈴道場」という野球塾を経営している根鈴雄次だ。
イチローと同じ1973年生まれ。法政大学からマイナーリーグに挑戦し、強打でメジャーの1つ下のAAAまで昇格した。下部リーグから挑戦してAAAまで上がった野手は根鈴と現役の加藤豪将しかいない。
根鈴は独立リーグを経て引退後、横浜に「根鈴道場」を開いた。この道場では原則としてシートノックや投球練習はしない。塾生たちはひたすらバットスイングを繰り返す。それもアッパースイングで。
タナーティーというティーにボールを載せてのティーバッティングが中心だ。「ガツン」、「ガシン」、根鈴道場にはボールとバットがぶつかるごつい音が鳴り続ける。
根鈴は細かなことは言わないが、スイングの時の「意識」と「イメージ」を大事にしろと言う。
「アメリカじゃ、小さな子供だって、間を抜く安打を狙ったりはしない。みんなホームランを打とうと思っている。そう思っているからホームランを打つことができる」
「フライボール革命」の素地には、日本とは180度違うアメリカの野球少年の意識があるのだ。
「角度をつけたライナーを打つ」
根鈴道場には、プロ野球選手や、甲子園に出場するような有望アマ選手も通ってくる。今年、派手に本塁打を連発して注目された若手も通っていた。また、甲子園ではなく直接メジャーに挑戦したいという高校生も来る。彼らは端的に言えば「ホームランの打ち方」を習いに来るのだ。
根鈴は、日本における「フライボール革命」の師匠なのだ。
「感覚的に言うと、フライボール革命はフライを上げるというより角度をつけたライナーを打つという感じだね。みんなランチアングル(打ち出し角度)を気にしている。それから少し振り遅れくらいの感覚のほうがいい。左打者なら左中間に飛ぶような。
大谷翔平選手は、去年、そういう感覚で左中間にホームランを打って、メジャーで認められるようになったんだよ」
昭和の強打者は、ボールの下半分を叩いてバックスピンをかけてホームランを打っていた。野村克也などはその典型で、狭い大阪球場の外野の最前列にぽとんと落とすような、名人芸のホームランを打っていた。
しかし今のホームランバッターは、西武の山川穂高も、広島の鈴木誠也も、根鈴の言う「角度をつけたライナー」を打とうとしている。日本野球のホームラン打者は、意識も技術も違ってきているのだ。
ホームランは「人の意識の産物」。そう思って、ホームランバッターの一挙手一投足を見てほしい。新しい発見があるかもしれない。