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日本で進行するフライボール革命。
本塁打は狙うからこそ増えたのだ。 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2019/06/27 08:00

日本で進行するフライボール革命。本塁打は狙うからこそ増えたのだ。<Number Web> photograph by Kou Hiroo

横浜で野球塾を経営する根鈴雄次。マイナーリーグでの経験を活かし、「ホームランの打ち方」を指導する。

ベーブ・ルースも意識していた「角度」

 実は、今話題の「フライボール革命」は、ルースのホームラン革命をデータで裏付けしたものだという見方もできる。

 トラッキングシステムなどによって打球の解析が進むとともに、一定のバットスピード以上である角度にボールを打ち上げると、安打、長打が急増することが分かったのだ。

 打球速度が158km/hで26度から30度の角度で打球を打ち上げると打率5割、長打率は1.500以上になる。好成績につながる打球速度と角度の組み合わせを「バレル」という。打球速度が速くなれば、バレルになる打球角度はさらに大きくなる。要するに、速いスイングで打球を打ち上げれば長打やホームランが量産できるのだ。

 この背景には、守備のデータ解析が進んで、内野手が打者の打球を予測して守備位置を変えるようになり、内野手の間を抜けるような安打が出にくくなったことがある。

 そもそも狭い内野には投手捕手も含め6人もの野手が守っている。広い外野には3人しかいないのだ。

 要するに、「フライボール革命」は、スイングスピードの速い打者が「角度を意識してバットを強く速く振り上げる」という意識革命なのだ。ベーブ・ルースも結果的に同じような打撃をしていたはずだ。

「ホームランを狙うのは邪道」という思想。

 日本では長い期間、「ホームランを狙うのは邪道」という思想が根強かった。

 戦中、明治大学の中心打者だった大下弘はぽんぽんとフライを打ち上げ、ホームランを狙ったために「ポンちゃん」と言われた。この打撃が戦後「青バットの大下」として花開くのだが、当時の指導者は「あんな打撃をマネしてはいけない」と選手を戒めた。

 スイングは「レベルスイング」「ダウンスイング」が良い。そしてバットを振り回すのではなく、鋭くミートをするのが良い。

 昭和中期には、王貞治、野村克也などのホームランバッターが出たが、彼らは別格。多くの打者は「振り回してはいけない」「打ち上げてはいけない」、「走者を進塁させる打撃を」と指導された。だからホームランバッター以外の選手がさく越えを打つと、指導者に気兼ねをして「安打の延長でホームランになった」みたいな言い方をしたものだ。

【次ページ】 ひたすらアッパースイングする野球塾。

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