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伊達公子が没頭した修士論文の中身。
砂入り人工芝は日本テニスの大問題。
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byHiromasa Mano
posted2019/06/24 17:00
現役引退後も伊達公子は日本テニスのために尽力している。その1つが、砂入り人工芝コートへの提言だ。
早大大学院の修士論文という形に。
この時、砂入り人工芝でプレーし改めて込み上げた違和感は、これまで積み重ねた知識や経験と結びつき、明確な言葉や思想としての姿を成す。
そうして、復帰後問題提起を繰り返してきた彼女の行動は、今年3月、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の修士論文『日本人テニスプレイヤーの世界トップレベルでの活躍を阻むコートサーフェス』として実を結ぶまでになった。
伊達が、砂入り人工芝を「世界での活躍を阻むコートサーフェス」と確信する理由とは何か?
そして彼女をそこまで突き動かす情熱の源泉とは?
WOWOWテニスアンバサダーとして全仏オープンを訪れていた伊達に、論文執筆を決意した経緯や、そこから導き出された結論を尋ねた。
GSとWTAツアーに砂入り人工芝はない。
まずここに、厳然たる事実がある。
テニスの国際大会の構造は、グランドスラムと呼ばれる全豪、全仏、ウィンブルドン、全米の四大大会を頂点とし、その下にATP(Association of Tennis Professionals)とWTA(The Women's Tennis Association)が運営するツアー大会、さらにITF(国際テニス連盟)主催の下部大会がピラミッドを形成する。
それら大会群のうち、グランドスラム及びツアー大会の会場に、砂入り人工芝は存在しない。
対して日本国内にあるテニスコートは、砂入り人工芝が50%を占めていた。伊達が抱く危機感の、そもそもの発端はここにある。
「大学院に行こうと思ったきっかけは、選手を終え次のキャリアに進む上で、何かしら引き出しを増やそうという単純な理由でした。そして論文のテーマを決める時、教授に『何に興味があるのか?』と聞かれて一番に出てきたのが、サーフェスのこと。興味があり、なおかつ日本のテニス界にも必要なのは、このテーマだと思ったんです」