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伊達公子が没頭した修士論文の中身。
砂入り人工芝は日本テニスの大問題。 

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内田暁

内田暁Akatsuki Uchida

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photograph byHiromasa Mano

posted2019/06/24 17:00

伊達公子が没頭した修士論文の中身。砂入り人工芝は日本テニスの大問題。<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

現役引退後も伊達公子は日本テニスのために尽力している。その1つが、砂入り人工芝コートへの提言だ。

錦織、大坂にもアンケート調査。

 論文を執筆するにあたり伊達が着眼したのは、世界で活躍するトッププレイヤーやコーチたちが、どのような環境で幼少期から今日までテニスをし、そして砂入り人工芝にいかなる印象を抱いているかである。

 同時に、国内のプレイヤーやコーチ、そしてテニスクラブ経営者らにも同様の質問をし、その差異にも注目した。

 そのために彼女は、大掛かりなアンケート調査を実施する。調査対象となったトッププロの内訳は、グランドスラムにシングルス、ダブルスで出場している51名。そのうち日本人は7名で、ここには錦織圭や大坂なおみも含まれる。

「トッププロとコーチへのアンケートは、昨年の全仏とウィンブルドン、それから全米の3大会で取ったので、質問項目やシートの準備は4月から5月上旬までには出来ていました。それに少し遅れて、日本のテニスクラブや選手たちへのアンケートも実施。こちらはGoogleフォームの作成と郵送もしたので、それなりにお金も掛かってます(笑)」

4カ月間は論文に掛かりっきり。

 国内対象のアンケートでは、プレイヤー5783人、国内コーチ(指導者)1389人から回答が集まった。全米オープン後の9月からは、それら膨大な数のアンケートを集計し、データを分析する作業に取り掛かる。そうして得られたデータをもとに、約4カ月間、伊達は論文執筆に没頭した。

「論文を書く上でとても悩んだのが、論文全体の構成です。当初『結論』と考えていた項目を冒頭に持ってきて、そこから裏付けとなるデータを見せてから『考察』するのがいいのか? それとも先入観なくデータを見せてから、『結論』へと展開した方が説得力があるのか? 考えれば考えるほどわけが分からなくなってきて、先生にも何度も相談しました。

 項目を書いた紙の短冊をたくさん作り、それを机に並べてシャッフルしながら考えていたのですが、年末にはもう机の上では足りなくなって、床にも並べながら(笑)。

 一度は夜中にパソコンがウイルスにやられて、泣きそうになりながら徹夜で対処しました。そんなこともありつつ、4カ月間はジムにも行かずに論文に掛かりっきりでした。

 でも結果的に、私が感じていたことの裏付けになるデータが集まった。つまりは、私の好き嫌いで言っていたことではないという結論に到達できたので、それだけでも大学院に行って論文を書いた意義はあるのかなと思います」

【次ページ】 低いバウンドを打つ能力に特化。

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