ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER
長谷部誠が過ごした最高の1年。
クラブと街に愛され、築いた信頼。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2019/06/09 12:00
苦しい台所事情のなか、躍進したチームを支え続けた長谷部誠。来季はフランクフルト在籍6年目のシーズンとなる。
熱い闘志を見せ続けた35歳。
ウィンターブレイク明けの長谷部は獅子奮迅。シーズン幕開け当初とは打って変わって気迫がみなぎり、熱い闘志で味方選手を鼓舞し、時には相手選手や審判に食って掛かって物議を醸したこともありました。
長谷部本人も「ピッチ上で感情を発散できるかどうかが僕のパフォーマンスのバロメーター」と言い、熱い振る舞いを自覚している様子。
今後の日本代表入りを辞退したことでモチベーションを高めることに苦慮していた35歳の青年は、フランクフルトというクラブで新たな生き甲斐を見出して、掛け替えのない職務に邁進したのでした。
疲労困憊のなかで発した力強い言葉。
ただし、ドイツ国内では中堅に位置し、資金面はバイエルンやドルトムントと比べることもできないほど乏しいフランクフルトにとって、リーガでの上位進出とEL制覇の二兎を追う戦いは熾烈を極めました。
本来ならば2チームを作れるくらいの陣容で臨まねばならないのに、フランクフルトのレギュラーは固定化されていて、誰かが欠ければ深刻なレベルダウンに繋がったのです。その結果、フランクフルトはシーズン終盤になると週2試合のタフゲームで苦戦が続き、EL準決勝チェルシー戦(イングランド)では壮絶なPK戦敗退を喫し、リーガも最終節でバイエルンに大敗して7位フィニッシュ。
結局、ぎりぎりで来季のEL予選の出場権を獲得するだけに留まりました。
この間、常時フル出場を続けてきた長谷部もさすがに疲労困憊。こちらが声を掛けても「あぁ」とか「うん」なんて空返事も多く、見ているこちらが心配でたまらなくなるほど。それでも最終戦となったバイエルン戦後のミックスゾーンで、心底疲れているのに丁寧に取材対応をした彼は、一瞬だけキッと前を見据えてこう言いました。
「二兎を追わなかったら見えなかったものがある」
力強く前向きなその言葉に、過酷な冒険の末に得た確かな充実感が示されていました。