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小学生サッカーでも飛び交う大金。
喜熨斗勝史の中国育成改革・後編。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/05/26 11:05
喜熨斗勝史は現在、広州富力でコーチを務めている。大金が動く中国サッカーのダイナミズムを体感する貴重な日本人だ。
大切な試合で大金をチラつかせ。
何よりも優先されるのは、結果。子どもたちの試合でも、結果至上主義が蔓延しているのが現状だ。選手を育成する上で、例えば試合に負けたとしても成長を見据えた場合は、時に結果よりも大切になることがある。
ただ、中国では育成年代の試合でもいわゆるニンジン作戦が行われることも多いという。クラブのオーナーは何よりチームが勝利し、名前が広がること、そして名誉欲が満たされることを望む。そのため、例えば大会の大切な試合では大金をチームにチラつかせ、子どもたちや保護者のやる気を促進させる。中国ではよくある出来事のようだ。
喜熨斗は実体験を交えて語る。
「もちろん良い選手を育て、良いサッカーをして勝利するのが理想ではあります。ただ、育成段階の最たる成功は、将来有能な選手を多く育てることです。中国はまだチームの勝利ばかりに力を注いで、人材を育てる本質が見えていないところがあります。
例えば、育成年代では大敗した試合でも何かを得られる場合もあります。でも中国では『こんな結果ではボスに怒られてしまう』とパニックになるスタッフもいます」
小学生、中学生年代にブローカーが。
また、度を超した「青田買い」も大きな問題だ。
例えばまだ小学生や中学生の年代の選手に対しても、いい選手と目をつければ突然ブローカーがやってくる。そしてクラブや保護者の眼前に大金を置いて、交渉するようなこともあるという。
そこでクラブが育成を名目に選手を保護した場合、今度はその親が代わりの大金を要求してくることも。純粋にサッカーの能力を上げていくというモチベーションとは違う、まるでプロの世界のような金銭概念が広がる。
喜熨斗が続ける。
「育成段階では自分がうまくなりたい、いい選手になりたいというマインド、いわゆる内的モチベーションを上げていくことが最も大切です。お金や物は、成長に対する外的要因になってしまう。
それは成長の先やプロになってから手にできる、副産物でなければいけない。ただ、子どもの時点で副産物を与えてしまっては、それはもう負けです。ここの感覚を劇的に変えなければ、本格的な成長は難しいと思います」