セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
資本主義でアヤックスは縛れない。
欧州の異端児はなぜCLで輝いたか。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2019/05/21 07:00
アヤックスだけが、全く異質の違うゲームをしていた。ビッグクラブは彼らに確実に恐怖を感じたことだろう。
資本主義の常識で、アヤックスは縛れない。
今季、彼らは16年ぶりにCLベスト16進出を果たした。だが、これは言い換えれば16年待たねばならなかったということだ。
もし、これが売上高が上がれば上がるほどグラウンドの結果もついてくる“資本主義の常識”によって動いているマドリードやロンドン、ミュンヘンやトリノだったら、10年も20年も待てない。早ければ1年で現場の首が飛ぶ。数年で経営責任になる。何が何でも何かを変えよう、となる。必ずそうなる。
アヤックスは変わらないし、変えない。
彼らはCLで優勝を狙うようなビッグクラブの常識の外にいる。
スカウト網を張り、これはと見込んだ少年たちを育てながら才能が現れることを10年も20年も待ち続けるなんてことは「歴史があるから。理想があるから」とか、そんなキレイな言葉だけでは到底説明しきれない。
中世から独立戦争を経験してきた彼らの感覚は正直よくわかりにくいが、僕はそこに度を超えた合理性というか、奥底に潜む狂気じみたものを感じずにはいられない。
透徹した合理性を携えて再び戦いを挑むのだ。
「最後の最後であんな馬鹿な失点をするなんて……我々はこの大会で素晴らしい戦いをした。だが、決勝に行くのはトッテナムだ。これがサッカーだ」
準決勝に敗れた指揮官テンハーフは、アムステルダムへと帰った。
彼の自宅はスーパーマーケットの上にある。買い物のために自宅と行き来する時間が惜しいからだ。ユトレヒト監督時代にはスタジアムの隣に住んでいた。
まだ暑い盛りの昨年7月25日、S・グラーツとの2次予備予選からアヤックスの快進撃は始まった。彼らは予備予選からセミファイナリストになった、史上初めてのチームだった。
5月15日、アヤックスはエールディビジを制した。
オランダ王者となった彼らは、プレーオフから来季のCL出場に挑む。
参考:『戦争の科学』(主婦の友社)アーネスト・ヴォルクマン著・茂木健訳