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資本主義でアヤックスは縛れない。
欧州の異端児はなぜCLで輝いたか。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2019/05/21 07:00

資本主義でアヤックスは縛れない。欧州の異端児はなぜCLで輝いたか。<Number Web> photograph by AFLO

アヤックスだけが、全く異質の違うゲームをしていた。ビッグクラブは彼らに確実に恐怖を感じたことだろう。

冷酷なまでの合理性と、非情な遂行力。

 絶大な富と武力を有していたスペインに対抗するため、オランダは徹底した合理性で対抗した。

 小数点という概念を編み出した数学者ステヴィンがオランダ軍の顧問に採用され、科学的視点から合理的かつ非情な戦法が次々に考案された。特に火薬量と導火線の長さが綿密に計算された時限爆弾は、国土の生命線である水路の破壊と引き換えにスペイン軍へ大打撃を与えた。

 オランダ人の冷酷なまでの合理性とどんな犠牲を払ってでもそれを遂行する非情さは、スペインを戦慄させ、最終的に独立を認めさせるに至った。

 完全勝利か、敗北か。

 今季のアヤックスの戦いは、かつての独立戦争を思い起こさせるほど過激でエキセントリックだった。

 スペインの巨人やイタリア王者は、アヤックスと戦っている間、長丁場のトーナメントやシーズン全体を見据えて体力を温存しようとか、戦況を落ち着かせようとか、そんなことを彼らの常識で考えたにちがいない。

 かつてCLの主役だった賢者ピルロや天才シャビは、試合の中で緩急をつけることの重要性をさんざん説いている。

 だが、MFデヨングやMFツィエクは5大リーグの盟主たちの常識を置き去りにしながらフルスロットルでアクセルを踏み続け、目を回してついていけなくなった敵を翻弄し、鮮やかに撃破した。

シーズンを通じて成長し、CLベスト4へ。

 シーズンがずっと順風満帆だったわけではない。

 グループリーグでバイエルンに引き分けた後、指揮官テンハーフは若いチームを叱責した。30歳のFWタディッチが選手たちを代表して監督に、もう少しだけ自分たちを信用してくれ、と掛け合った。

 1月下旬には優勝を争う国内リーグで、フェイエノールトから屈辱的な2-6の大敗を喫してチームは動揺したが、自決の精神で持ちこたえた。

 優勝候補を次々と破ってオランダ勢としては'04-'05年シーズンのPSV以来となるCLベスト4進出を決めた彼らは、季節を越えながらひと回りも二回りも成長した。

 トッテナムとの準決勝を前にした彼らは、もはや大会のアウトサイダーではなく、受けて立つ立場になっていたのだ。

【次ページ】 リードし、追いつかれ、刺し違える覚悟で。

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