セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
資本主義でアヤックスは縛れない。
欧州の異端児はなぜCLで輝いたか。
posted2019/05/21 07:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
AFLO
アヤックスは散った。苛烈に散った。
CL準決勝でトッテナムに敗れ23年ぶりのファイナル進出を逃したとはいえ、大会3連覇の王者レアル・マドリーを倒し、優勝候補ユベントスを破った彼らの快進撃は、間違いなく今大会のハイライトの1つだった。
高速のハイプレス、一糸乱れぬ攻守のポジショニングと連動した最高精度のパスワーク。そして、それらを90分間維持できるフィジカルとチーム全体で共有されたインテンシティ。
アヤックスは欧州の巨人たちを圧倒した。
ただ、彼らの戦いぶりには、古豪の復活やクライフイズムの結実、もしくはローコスト&育成理念の勝利といった、手垢のついた言葉だけで表現しきれない何かがあった。
それは強いて言うなら、レアルやバルセロナ、ユーベといった欧州サッカー界のエリートクラブたちが作る保守本流から外れた、“異端派の狂気”とでもいうべきものかもしれない。
常識を打ち破るために吹き飛ばしたのは、キジの丸焼きと最高級ワイン、そして将校たちの頭だった。異端の源流は16世紀後半に遡る。
イタリア貴族のランチを破壊した砲撃。
1581年、当時絶大な栄華と権力を誇ったスペイン王家の支配下にあったオランダは建国宣言を発し、独立のために立ち上がった。オランダ軍鎮圧のため、スペイン宮廷に近かったイタリア貴族のパルマ公ファルネーゼが派遣された。
激しい砲撃戦が続いたある日、ファルネーゼは優雅な昼食のために“昼休み一時停戦”を申し出た。貴族同士の誇りと名誉を重んじ、高度に様式化された当時の戦場ではそれが“常識”とされていた。
しかし、決死の覚悟で臨んでいたオランダ軍は停戦の申し出を無視した。
敵本陣のテーブルめがけて大砲をぶっ放し、イタリア貴族の豪華なランチと部下たちは跡形もなく消し飛んだ。
血まみれになったファルネーゼは、目の前のオランダ人たちに自らの常識が通じないことを悟ってさぞ驚愕したにちがいない。自分たちの存亡のかかったオランダ人たちにとっては「常識や名誉などクソ食らえ」だった。