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白鵬が貴景勝に出した注文を考える。
突き押し相撲は安定感が無いのか。
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph byKyodo News
posted2019/05/11 15:00
突き押しで大関に昇進した貴景勝が、ここからどんなスタイルでさらに上を目指すのだろうか
ツラ相撲の代表格、御嶽海と琴奨菊は?
ただ、この検証結果を手にしても、感覚的に納得できない部分が残る。今まで私たちがツラ相撲だと思っていた力士たちをどう説明するのか? ということである。
例えば、ツラ相撲としてよくその名前が挙げられる御嶽海と琴奨菊はどうだろうか。御嶽海の3連勝率は21.7%、3連敗率は10.1%だ。そして、琴奨菊の3連勝率は18.1%、3連敗率は10.3%である。彼らが「ツラ力士」に含まれないのは3連敗率が平均を下回っているからである。
御嶽海と琴奨菊は、上位総当たりの番付で長く戦ってきた力士である。琴奨菊は大関時代を除外した数字とはいえ、大相撲のトップ16を相手に3連勝比率が3連敗比率の倍程度あるということは、それだけ彼らの実力が際立っていたということである。3連勝比率が20%前後というのは、言い換えると1場所に1度は3連勝しているということだ。
だが、そんな実力者たる彼らの連敗率も10%を超えている。2場所に1度は3連敗すると考えると、さらに上を目指す力士としては少々物足りない。大関を期待される力士としては、比較的連敗の多い力士と言える。
御嶽海を説明する言葉を探す必要がある。
例えば大関昇進まで時間を要した稀勢の里の3連敗率は8.5%だ。彼よりも関脇経験が長かった豪栄道でさえ、9.2%である。なお、貴景勝の3連勝率は27.6%、3連敗率は7.8%だ。大関昇進までの関取場所数が少ない上に怪我で一時期番付を下げていた経験があることを踏まえても、御嶽海と琴奨菊の3連敗が多いことは否定できない。
さらに上位を目指すならば御嶽海の成績が比較的不安定なのは間違いないが、それが突き押しのスタイルと相関があるとは言い切れない。ツラ相撲というレッテルで分かった気になるのではなく、詳細な理由を探していく必要がある。
常識を疑え。令和の大相撲のキーワードは、そこにある。
ツラ相撲の実態を検証した後で私が思ったのは、そういうことである。