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新入幕・志摩ノ海の「腐らない」は
リハビリ中の宇良にも好影響。
posted2019/05/10 17:30
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kyodo News
令和最初の大相撲、5月場所が始まる。
この記念すべき場所で待望の新入幕を果たした力士はふたり。横綱白鵬の内弟子といわれ、小さな体で土俵を沸かす炎鵬(宮城野部屋)と、得意の突き押し相撲で十両2場所連続優勝を決めた、木瀬部屋の志摩ノ海、29歳だ。
志摩ノ海は近畿大学卒業後、2012年5月の前相撲で初土俵を踏み、序ノ口優勝、序二段優勝、三段目2場所目でも優勝を飾る。誰もが順調な出世に目を見張り、将来を期待するなか、翌年7月には西幕下4枚目まで番付を上げた。
しかし十両昇進を目前にして十字靱帯断裂の大ケガに見舞われ、以来、6場所連続休場で番付を序ノ口まで落とすこととなった。それでも2016年7月には新十両昇進。1場所勤めて幕下に番付を落としたものの、2018年3月には再十両復帰を果たす。そして今年1月、3月と連続十両優勝での、文句なしの幕内昇進だ。
6人の関取経験者がいる木瀬部屋。
師匠の木瀬親方(元肥後ノ海)は言う。
「力士にケガはつきものですが、志摩ノ海はクサらなかったのがよかった。投げやりにならずにコツコツとやって来て、下の子たちもそれを見て頑張ろうという気持ちになったでしょうね」
木瀬部屋の稽古場にある木札を見ると、幕下の番付には常幸龍、希善龍、大成道、徳真鵬、高立、肥後ノ城と、関取経験者が実に6人も名を連ねている。誰もが関取復帰を目指し、治療やリハビリ、トレーニングに稽古と、人知れず涙と汗を流している毎日だろう。
「ひとりひとりに掛ける言葉はそれぞれ違いますが、誰のためでなく、本人のためですからね。『自分のことだけを考えろ』『相撲だけが人生じゃないぞ』と言っています。ケガをして番付を落とした時に、いかに違うところを鍛えられるか。『体を動かせないなら違うところを鍛えなさい』とも。たとえば掃除ひとつでも一生懸命出来る子は伸びる。陰から見ていて、志摩ノ海は自分の今できることを一生懸命やっていました。本人は『情けない、はがゆい』と思っていたかもしれないですが、結果は必ず出るだろうと信じていました」