“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
大怪我を克服した「ヒガシのクリロナ」。
神戸FW増山が覚えた身体の使い方。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/04/28 07:00
大怪我から復帰を果たしたFW増山朝陽。躍動感あるドリブルを、プロのピッチでも見せることができるか。
高すぎる身体能力が招いた怪我。
彼の身体能力は間違いなく常人離れしているものがある。これは彼を初めて見た時から思っていた。他の選手と比べてもバネとスプリントの強度、そしてシュートを打つインパクトの強さは、これまで見てきた高校生の中でも抜けていた。プロに入ってからも、試合に出場をできたのは、壁にぶつかりながらも誰にも真似できない抜群の身体能力を持っていたからだろう。
しかし、彼の前にはプロの壁以前に、もう1つ向き合うべき問題があったのだ。
「高校年代において、トップで活躍する選手は、20、21歳で筋肉肥大して成長曲線のトップにくるので、コンディション維持が難しくなる。特に身体能力が高い選手であればあるほど、骨盤と筋肉をオーバーユーズしてしまうので、大怪我のリスクが多くなります。カットイン、ステップなどが、本人が気づかないうちに相当な負荷になってしまっているケースが多くあります」
こう語るのはプロサッカー選手のケアにも従事している鍼灸師・フィジカルトレーナーの袖野建氏。自身も名門・富山第一高でプレーしていた彼の目から見ても、増山の身体能力は抜けていたという。
実は横浜FCで出場機会が少なかったのは、怪我の影響もあった。彼は腸腰筋肉離れという非常に珍しい怪我を負ったのだった。
「ドリブルしてカットインのタイミングでグッと体重移動させた時にブチっときてしまったんです。この時に医者に見せたら、『これはかなり珍しい怪我だから、病院としても大学に提出して研究するデータがほしい』と言われたくらいでした」(増山)
気づかないうちに限界を超えてしまう。
腸腰筋とは大腰筋と腸骨筋の2つで形成されている筋肉のことで、腰椎と大腿骨を結ぶ筋肉群の総称である。内臓と脊椎の間にあり、いわゆるインナーマッスルと呼ばれる。
「これはレアケースの部類に入ります。腸腰筋はインナーマッスルなので、思い切り股関節を後ろに伸ばした状態でシュートを打ったり、スプリントを繰り返さないと、なかなか切れるものではありません。でも、増山選手はフィジカルが強すぎて、激しい加速、ターン、ストップ動作を繰り返してきた結果だと思う。腹筋や腸腰筋などのインナーマッスルの肉離れは、ずば抜けた身体能力の持ち主特有であり、そのをコントロールできていない証拠だと思います」(袖野)
要するに増山は自分の高すぎる身体能力を制御できていなかったのだ。自分の身体能力に頼りすぎるプレーをするあまり、時に怪我を引き起こし、思うようなプレーができなくなるという状況に陥ってしまっていた。
「正直、身体の可動域がまだ自分の感覚についていけていない部分がありました。気づかないうちに自分の身体の限界を超えてしまっていると思います。リミッターがすぐに外れやすいのかもしれません」