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大怪我を克服した「ヒガシのクリロナ」。
神戸FW増山が覚えた身体の使い方。
posted2019/04/28 07:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
「ヒガシのクリロナ」
ヴィッセル神戸のMF増山朝陽は東福岡高校時代、こう称されていた。
ずば抜けた身体能力を持ち、全身をバネのように弾ませながら、高速フェイントで相手守備網を切り裂き、正確なクロスと強烈なシュートを繰り出す。
高2までは無名の存在だったが、3年で出場した山梨インターハイで圧倒的な存在感を放ち、優勝。その名はたちまち全国区に。複数のJクラブからオファーを受け、神戸に入団が決まった。
スピード溢れるサイドアタックでプロの世界でも大いに猛威を振るう、そう思われていた。
だが、現実は違う。ルーキーイヤーながら、リーグ戦9試合に出場したものの、試合をこなすごとに特徴である突破力は影を潜め、前への推進力を失っているように見えた。
「自分の持ち味というか、積極的にドリブルで仕掛ける姿勢が上手く出せないんです。遠慮をするというか、ミスが怖いというか……。自分の武器を出すタイミングを掴めないでいます。やっぱりプロは本当に難しい世界ですね」
ぶち当たった壁、3年目は期限付き移籍。
1年目でいきなりぶち当たったプロの分厚い壁。
プロに入ると、組織的な守備も求められ、彼のドリブルは時としてチームのフィットしないことも出てきた。ボールを落ち着かせるべきところで仕掛けてしまい、仕掛けてもボールを離すべきタイミングで離せない。
自由に武器を出せた環境だった高校時代からすると、プロの世界では制限がある中で個性を出していかないといけない。当然、プロの世界では、味方も敵もレベルが一気に上がっているため、自由な個だけでは生き残っていけない厳しい世界だ。
理想と現実のギャップに困惑する中、これまで通用していた部分が通用しなくなり、自信が奪われていく。増山は悪循環にはまり込んでしまっていた。
プロ2年目の2016年はプロ初ゴールこそマークするも、僅かリーグ8試合出場に留まり、'17年には出場機会を求めてJ2の横浜FCへ期限付き移籍を決断。だが、リーグの出場試合数は1年目と同じ9試合、さらに出場時間はプロ入り後ワーストを記録。不本意なシーズンとなってしまった。
「早く自分の身体を“プロ仕様”にしないといけない。この壁は自分にとって必要なもの。持ち味をどこでどう出すか、武器を忘れずに磨き上げながら、頭を使う。成長するために必要なモチベーションにしたいと思っています」
華々しかった「ヒガシのクリロナ」が陥った深い葛藤。それは“プロ仕様”へアジャストすることの難しさだった。