ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
ラモス瑠偉が見せた円熟の名人芸。
動けず、走れずもループシュート。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/05 10:00
若き日の森保一(右)と競り合うラモス瑠偉。“あのループシュート”はJリーグ史に残るゴラッソだった。
広島は風間・森保の中盤コンビ。
この名参謀の計略は、どんなに負傷がひどかろうとも、ラモスの存在抜きには考えられなかった。一瞬で戦局をひっくり返す卓抜した技術と戦術眼は、余人をもって代えがたいものだったからだ。
しかも、ホームの第1戦を0-1で落とした手負いの広島は、左翼を担うパベル・チェルニーの復帰で必勝態勢。攻守のバランスはもとより、チームの総合力でも広島のほうが一枚上手と見る専門家も少なくなかった。
スチュアート・バクスター監督の手掛けた広島の心臓は、風間八宏と森保一という2人のセンターハーフ。前者がボールの集配役、後者が回収役を担う理想のペアでもあった。陣形は4-4-2フラット。ブラジルをはじめとする南米勢の影響が色濃くあった当時のJリーグではめずらしく、規律と組織力にすぐれる好チームだった。
事実、開始7分に右から崩して決定機をつくりだし、V川崎のベンチを凍りつかせる。主砲の高木琢也がこのチャンスをモノにしていたら、どうなっていたか。
ペレイラ&加藤久で高木封じ。
ともあれ、ここからV川崎が鉄壁の守りを築くことになる。当初、広島の右翼を担う盧廷潤(ノ・ジュンユン)と前線で高木とペアを組むイワン・ハシェックの2人をゾーンで見る手はずだったが、ここをあっさり破られたことで作戦変更に踏み切った。
カピトンを左サイドに回して盧のマーク役に据え、左サイドバックの中村忠を刺客としてハシェックに差し向ける。こうして瞬く間に傷口を塞いだネルシーニョの手際は見事の一語。逆サイドも石川康がチェルニーの突破をことごとく阻み、広島の強力な攻め手である左右の翼をへし折ってみせた。
もとより、中央の守りは強固だ。この年の年間MVPを受賞するルイス・カルロス・ペレイラが最後尾で余り、この日を最後に引退する加藤久が体を張って、高木の圧力を食い止める。後半に入り、その高木を負傷で失った広島がなりふり構わずロングボールを放り込むパワープレーに転じても、緑の壁は最後まで崩れることはなかった。