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憲剛も家長もいなければ「縦に速く」。
プランBで勝ちきる川崎の王者ぶり。
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byGetty Images
posted2019/04/29 17:00
神戸戦でリーグ戦今季初ゴールを決めたFW小林悠。エースの復調はリーグ3連覇を目指すチームにとって好材料だ。
スタメンの約半数が欠場の苦しい状況。
一方で、この試合に向かう王者・川崎の台所事情は極めて厳しかった。
メンバー表には中村憲剛、家長昭博、阿部浩之、守田英正、車屋紳太郎、奈良竜樹といった主力の名前が見当たらない。決して温存したわけではない。ACLとリーグ戦を並行して戦い続ける過密日程の影響もあり、負傷や蓄積した疲労で欠場を余儀なくされたのである。
さらにこの神戸戦でリーグ初先発が予想されていたプロ2年目の脇坂泰斗が、試合前日の練習で負傷してしまう不運も起きていた。アタッカーの齋藤学を不慣れな右サイドに配置する布陣で臨まなくてはいけない事態となっていたのだ。
だが苦境でこそ問われるのが、チームとしての真価でもある。
その意味で、王者・川崎フロンターレはしたたかだった。
川崎といえば、ボールを保持して相手を押し込むことが信条とも言える攻めるスタイルのチームだ。だがこの日は、中盤でのボールの握り合いにはこだわりを見せず、潔いほどに神戸にボールを譲った。
意図的に持たせる、川崎らしからぬ戦術。
なぜか。
この日の川崎は、「攻めること」よりも「奪うこと」で勝機を見出していたからである。中盤で抜群のボール奪取を見せたダイナモ・田中碧がその狙いを明かす。
「自分たちがいかに誘導させてパスコースを少なくして、自分たちが取りたいところでボールを奪うか。そこが大事だと思っていました。自分たちが意図的にボールを持たせている感じになったと思う」
神戸が行う後方からのビルドアップに対して、小林悠と知念慶のツートップ、そして右サイドの齋藤学が牽制には行くが、決して深追いしなかった。圧力をかけつつも、あくまでパスコースを切る守備で構えた。
そうやって神戸にボールを保持させながら、イニエスタやビジャにボールが入る瞬間に、コンパクトな陣形を保っていた味方が狙いすましたインターセプトでボールを奪い切る。この守備に手応えがあったと、前線にいた小林は振り返る。
「危険なところはわかっていたので、知念と2人でそこに入れさせないようにしました。なるべく(相手の)センターバックには持たせる。イニエスタに持たれた時は、みんなで厳しくいく。そこは意思統一できていたと思います」