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選手の息づかいを時代の空気と共に。
「平成野球 30年の30人」に込めたもの。 

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posted2019/04/23 11:00

選手の息づかいを時代の空気と共に。「平成野球 30年の30人」に込めたもの。<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

本書は創刊39年となる「Number」で幾多の野球記事を手がけてきた石田氏の、野球ライターとしての集大成といっていいだろう。

第1回WBCの直後のイチロー。

 石田さんのことを、イチローのインタビューを数多く手がけたベースボールライターとして記憶にとどめている人も多いことだろう。過去には『イチロー・インタヴューズ』というインタビュー集(文春新書)も出しており、Number977号掲載の引退直後のインタビューの聞き手を務めたのも石田さんだった。本書には平成18年、第1回WBC優勝直後のロングインタビューが掲載されている。

「イチローさんの記事のどれを本に掲載するかは、大変難しい選択でした。メジャーリーグのシーズン最多安打記録を更新した時の話も、載せたかった。でも第1回WBCの時は、優勝したあと、聞きたいことがたくさんあった中で、本当にその直後に話を聞くことができたんです。チームと別れて、アリゾナに戻ってすぐ、というタイミングで、スーツケースを前にしてのインタビューでした。決勝戦で着たユニフォームもそこに置いてあって、キューバのキャッチャーのレガースとぶつかった跡が青くついている。なんというか、触るとまだ熱いような、戦いの余韻が残っている時に話を聞くことができたんです。あの充実感、喜びはひとしおでした。だから、このインタビューを選びました」

 WBC、というイベントも、平成を象徴する大会だった、といえるだろう。

「プロが参加するようになってからの五輪とWBCは、いろいろと日本の野球界に影響を与えましたが、やっぱりWBCが大きかったのは、日本の野球とメジャーリーグとの大きな接点となった、ということでしょうね。WBCがあったから日本人メジャーリーガーがどんどんと増えていったと思っています。

 ただそれが日本とアメリカの野球の距離を縮めたか、というと、必ずしもそうではない。何年も続けてメジャーでフルシーズン戦うことのできた選手がどのくらいいたのか、と考えると、その距離を改めて見せつけられた、という表現の方が正しいかもしれません。WBCにしても、ここ2回は優勝できていないし、誰もがメジャーに行くか、といえば、そうでもなくなってきている。だからWBCはメジャーという夢を与えてくれたけれど、シビアな現実もまた教えてくれた大会だったように思います」

あえて残した「時代の空気感」。

 本編締めくくりの年となる平成30年は、そのシビアな現実を軽やかに乗り越えていく存在として、大谷翔平のメジャーデビュー直後のインタビューがセレクトされている。そして平成が終わり、令和の時代となっても、石田さんは野球の現場にあって、取材を続けていくことになる。

「今回の本で、記事をセレクトするにあたって考えたことのひとつに、『時代の空気感』があります。この本は、平成が終わり、これから訪れる令和の時代に読まれることになりますが、読者の中で平成元年の空気を思い出せる人はおそらく40代以上に限られてしまい、30代までの若いひとたちは、その空気を想像しながら読むしかありません。つまり、当時の空気がわかっている人、わからない人の双方に向けてこの本をつくらなければならない、という難しさがありました。でも最終的には、あえてその記事が書かれた当時の空気も含めてそのまま掲載しよう、ということになりました。いまとなってみれば、『何を書いてるんだ』と思われるものもあるかもしれません。でも、あのときはそういう空気が流れていたことも事実なのです。その空気も含めてこの30年を感じてもらえたらな、と思っています。令和になっても、その時代時代の空気をしっかりと感じながら、選手や監督の声をしっかりと読者に伝えていきたい、そう考えています」

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『平成野球 30年の30人』

幾多の感動ドラマが生まれた平成の時代、先日引退したイチローも信頼した著者が「Sports Graphic Number」を中心に発表してきた傑作ノンフィクション・インタビュー記事を「1年1人」のコンセプトでセレクト。
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