“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
町田FW中島裕希「昨年を超える」。
恩返しはクラブの未来への貢献。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/04/17 17:00
FC町田ゼルビアで4シーズン目を迎える中島裕希。チームに欠かせないベテランとしてJ1昇格へ奮闘する。
「左サイドハーフ、大丈夫?」
今季、町田は開幕戦で東京ヴェルディに勝利するも、そこから3連敗を喫し、スタートに躓いた。しかし、第5節の鹿児島ユナイテッド戦で連敗を止めると、そこから立て直し、第9節終了時点で4勝4敗1分の9位につけている。
今季、中島はまだ1ゴールしか取れていない。だが、今の町田において彼の存在は絶対的となっている。
それを証明したのが第9節のアビスパ福岡戦だった。この試合、中島はFWではなく、左サイドハーフとしてスタメン出場をした。
「いきなり相馬さんから『左サイドハーフ、大丈夫?』と言われて、『大丈夫です』と答えただけです(笑)」
彼のキャリアを見ても、左サイドハーフでの出場はほぼ記憶にない。町田に入ってからは公式戦では1度もない。だが、そのポジションに慣れているかのように効果的なプレーを続けた。単に左サイドで張り付くだけでなく、FWの時と同様に相手DFを見ながら、絶妙なポジション取りでボールを引き出すと、ボールを失うことなく味方にきっちりと繋いだ。
18分。中央に入り込んで相手DFの縦パスをインターセプトすると、素早く持ち直して前に仕掛け、自分が空けた左サイドのスペースに動いたFWジョン・チュングンへスルーパス。落としたボールをDF下坂晃城が受けた瞬間、中島はニアのスペースに一気に潜り込み、相手のDFを引きつけた。スペースが空いたファーに下坂がきっちりとクロスを送り、FW富樫敬真が合わせた。
相馬監督「彼は時間を作ることができる」
この日の貴重な先制点の起点となると、78分に交代を告げられるまで、攻守にわたり「ファーストスイッチ」となり続けた。左サイドの攻撃を活性化し、守備でも連動したプレスまで幅広くこなす。ゴールという結果がなくても、中島がピッチにいることのメリットはとてつもなく大きかった。
2-0の勝利を掴んだ後の相馬監督の記者会見。中島のことに話が及ぶと、「あまりこういう場で個人のことをたくさん語りたくないのですが……」と前置きをして、こう口にした。
「彼は時間を作ることができる。そして、攻撃でも守備でもスイッチを入れることができる。もちろんスピードを持っている選手だけど、それだけではなく、『次の一手』を逆算した中でプレーできる。一手先まで読める選手なので、攻撃でもボールを受けるだけで終わらずに、次のことを考えて受けてくれる。彼の良さが出て、周りの選手の良さを引き出してくれていたと思います」
相馬監督の絶大な信頼と、それに応える中島との固い絆がそこにはあった。