フランス・フットボール通信BACK NUMBER
EU離脱に反対するガリー・リネカー。
プレミアリーグに与える影響とは?
text by
フィリップ・オクレールPhilippe Auclair
photograph byPhilippe Echaroux/L'Equipe
posted2019/04/14 11:00
かつてイングランド代表として名を馳せたリネカー。彼の声は少なからず国民に影響を与えているだろう。
「誰もが慎重になっている」
――しかし、英国で獲れる水産物の80%近くがヨーロッパに輸出されています。
「その通りなのに、例えば農民も多くが離脱賛成に票を投じた。だが彼らも、生活に与える甚大な負の影響を理解し始めて、とても意気消沈している」
――英国サッカー界では、あなたと意見を同じくする人は多いですか?
「何人かの例外を除いて、誰もが慎重になっている。選手や監督が世界中から集まるわれわれのサッカーはグローバルな魅力に溢れていると同時に閉鎖的でもある。同じクラブの中にさえ、考えが180度異なるものたちが混在している。そうした状況では、契約上の制約があるなしにかかわらず、自らの意見を堂々と口にするのはデリケートな問題を含んでいる。
ユルゲン・クロップは誰に憚ることなく自分の意見を述べるが、それは彼が強いキャラクターの持ち主であるからだ。グアルディオラは……、私にはよくわからない。カタルーニャの独立運動には関わっているが、それ以外となるとどうか。
他の関係者たちが口をつぐむのはよくわかる。反響が恐ろしいまでに暴力的であるからだ。強い自己と考え方を持ち、契約に守られていない限り意見の表明は難しい」
サッカーは「多様性を示すショーウィンドウ」
――あなたも脅迫を受けたり、実害を被りましたか?
「もちろんだ。でも攻撃してくるのは匿名の人間ばかりで……、奇妙なことに街中ですれ違う人は誰ひとり脅迫的な言葉を口にしない。一度だけ電車の中でこんなことがあった。誰かが私の方に寄って来てこう話しかけた。
『2度目の国民投票請求はうまくいきそうですか? でもそのために私は投票したわけではありません』と。
他には何もない。バスに乗っても、電車や地下鉄に乗っても本当に何もないんだ。人は自分の姿が隠れているときの方が勇気が出る。ところがこれは……(とスマートフォンを指し示す)。どうしてあれほどアグレッシブで暴力的になれるのか理解できない。自分とは相いれない意見を他人が持つのも認めるべきだろう」
――今日の英国にはそうした寛容性が見当たりません。
「それが恐ろしい。私が生きてきたサッカーの世界は、国籍や人種の多様性を示すショーウィンドウだ。イングランドのどのクラブのロッカールームも、異なった顔つきの選手たちで溢れ、さまざまな言語が飛び交っている。ヨーロッパのあらゆる地域、世界のあらゆる地域から集う選手たちを見るのも、プレミアリーグ観戦の大きな喜びのひとつだ。人種や国籍、宗教に関係なくファンは選手に声援を送る。
この国のサッカーは、異なる出自の人々が美しいハーモニーを醸し出す最高の例となっているのに、私の印象では誰もそれを気に止めてはいない。人種差別的な歌がスタンドで歌われたときに、サッカーを糾弾するだけだ。そうした愚かな差別を生み出す社会こそを、本当は糾弾すべきであるのに」