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レアル撃破の新生アヤックス。
浸透するクライフイズムと育成術。
text by
中田徹Toru Nakata
photograph byMutsu Kawamori
posted2019/04/08 17:00
CL決勝トーナメント1回戦第2レグで王者レアルを圧倒。タディッチはレキップ紙で10点満点の評価を受けた。
9年前の敗戦で明確になった「誇り」。
実は、サンティアゴ・ベルナベウは、アヤックスの歴史的瞬間を幾度となく生み出してきたスタジアムでもある。
'95年の秋、アヤックスは彼の地で行われたCLのグループリーグでレアル・マドリーを2-0で破ったばかりか、そのプレーの鮮やかさに敵地のファンからスタンディングオベーションを贈られた。もちろんデブールもその一員だった。
「そして僕らはそのまま東京へ飛んで世界一になったんだ」
2010年のCLでは、逆に0-2で負けた。そして何より試合の内容が悪かった。レアル・マドリーの枠内シュート15本に対し、アヤックスはわずか1本という体たらくにヨハン・クライフは激怒し、全国紙デ・テレフラーフのコラムに「これはもうアヤックスではない」という辛辣な批判を記した。
「'10年のレアル・マドリー戦は、得点差こそ2点だったが、負け方が酷かった。我々はアムステルダムっ子。我々はアヤックスなんだ。その誇りを持って勇敢に戦わないといけなかった」
“個ありき”の育成改革。
その後、クライフのアイデアを軸に、アヤックスは育成の改革を進めていった。オランダの育成メソッドは以前から“個”の力を伸ばすことで知られているが、まずはチームありきで、その中で個の力を伸ばしていた。だが、クライフの考えは、“個ありき”だった。個を徹底して伸ばし、秀でた個を集めることによってチームを形成しようとしたわけだ。
こうして採用されたのが“インディビジュアルコーチ”という役職だ。サッカーのチームには監督、コーチがいるが、さらにインディビジュアルコーチがストライカー、ウインガー、MF、CB、GKといったポジションごとに必要なことを徹底して教え込むことにしたのだ。
「『一流が一流を作る』というクライフの考えから、DFならウィンストン・ボハルデ、ストライカーならジョン・ボスマンといったアヤックスで活躍したOBがインディビジュアルコーチを務めており、現在、私はU-17、18、19のMFを見ている。
さらに、アヤックスアカデミーは“メンター制度”を採用しており、各指導者がそれぞれ何人かの選手を担当して、サッカーのこと、プライベートのこと、学校のことなどの相談に乗ったり、アドバイスを送ったりしている。私はトップタレントの3人のメンターを務めているんだ」