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菊池雄星が目論む脱・日本型投球。
「高めのストライク」を駆使せよ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/03/29 10:30
イチローの現役最終戦は、菊池雄星のメジャー初登板でもあった。彼のメジャー人生は、ここからはじまるのだ。
打者に球種を判断させない方法。
高めに投げる2つ目の理由は配球だ。
投球のデータ分析の世界に「ピッチトンネル」という考え方がある。
打者から7メートルほどの位置にリングがあると想定し、どの球種もそのリングを通るように投げることで、球種の判別を難しくさせるというものだ。7メートルというのは、打者が球種を判断できる最後の地点と言われており、そのリングを通るボールを投げることで球種の判別を難しくしようという考え方だ。
これは、菊池が2018年から契約しているネクストベース社のデータアナリストと連係して目指してきたピッチングでもある。
「一般的には大きく曲げる、緩急をつける、バッターを泳がせるのがピッチャーの仕事みたいなところがあります。その中でピッチトンネルについて聞いたんですけど、真っすぐに似せて、打者の手元で曲げる意識が必要だということを知りました」
速いボールと遅いボールを混ぜることで、打者のタイミングを狂わせる緩急は、日本の野球では特に重視される。それは、日本の打撃スタイルにも関係していると言えるだろう。足を高く上げる打者が多く、そういったタイプには緩急が効果的だ。
一方、メジャーの打者を相手に緩急で勝負しようとすると、ボールの軌道がピッチトンネルを外れるために、球種を判断されてしまうのだ。
金子弌大も球種がわからない投手。
「MLB OPENING SERIES」のエキシビションゲームを見た人ならピンと来るかもしれない。
日本ハム対アスレチックス第2戦の9回表。3点ビハインドのアスレチックスは、4番のデービスが石川直也から3ランを叩き込んで同点とした。
デービスが打ったのは、石川直の手からボールが離れた瞬間にそれと分かる、浮き上がった球種だった。
一方、その前の第1戦では、2番手で登板した金子弌大が4イニングで9奪三振の快投を見せている。カーブを除くほとんどの球種の軌道や球速が似ていて、アスレチックス打線は手も足も出なかった。
金子は「打者が何を投げているのか分からないようにしたい」と試合後に語っていたが、おそらく、彼もピッチトンネルと似た概念を取り入れているのだと推測できる。