野球善哉BACK NUMBER
菊池雄星が目論む脱・日本型投球。
「高めのストライク」を駆使せよ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/03/29 10:30
イチローの現役最終戦は、菊池雄星のメジャー初登板でもあった。彼のメジャー人生は、ここからはじまるのだ。
低めにこだわってカウントが悪くなる。
試合を少し振り返る。
1回裏、1番打者のセミエンを一塁ゴロに抑えたが、低めを丹念に狙いすぎてフルカウントに持ち込まれている。続く2番は強打者のチャプマンから三振を奪ったものの、3番・ピスコティもフルカウントの末の右翼飛球だった。
三者凡退という結果は、一見順調に見えるが、オープン戦で見せた高めを大胆に使う配球ではなかった。
2回裏は先頭の4番・デービスを歩かせてしまう。この時も日本時代と同じ低めを突く投球でフルカウントとなり、最後は四球となった。
5番のピンダーは2-2から三振。この辺りから高めの配球が少し増え、続くオルソンは1-2と追い込んでセカンドゴロ、7番のプロファーは高めを多く使っての三振。
3回はピンチを招いて球数を要したものの、4回は13球で三者凡退のリズミカルなピッチングだった。
しかし5回裏、オルソン、プロファーに連打を浴びてピンチを迎える。なんとか2死までこぎつけたが、1番セミエンに8球を要してタイムリーを浴びた。まだ1失点だが球数は91球。日本であれば続投だっただろうが、試合前の球数プランを超えて降板になったというわけである。
日本には「高めのストライク」の概念がない。
菊池が高めを狙って投げようとしているのには、根拠がある。
1つ目の狙いが、「フライボールレボリューション」への対策だ。
近年のメジャーリーグで主流になりつつある「意図してフライを打つ」スタイルは、本塁打を増加させた。そのスタイルを取り入れた打者は、ヒッティングゾーンをあげてアッパースイング気味に振り抜くケースが多い。
そのアッパースイングを逆手に取るために必要なのが、フォーシームで投げる高めのストレートなのだ。打者のアッパースイングを、それを上回る力でねじ伏せようという算段だ。
高めに投げればいい言えば簡単に聞こえるが、日本で長くプレーした選手には、これが難しい。なぜなら、「高めにストライクを投げる」という概念がそもそもないからだ。
菊池はいう。
「日本で高めのストレートというと、ボール球で誘うことはありましたが、高めのストライクゾーンにキャッチャーが構えるという考え方がなかった。ストレートはいかに低めに集めるかだし、その球を使いながら、スライダーを追っかけさせるという考えに意識が向いていましたから」
菊池はキャンプから意識を切り替えようとしていたが、立ち上がりはうまくいかなかったというわけである。