プレミアリーグの時間BACK NUMBER
イングランドの二重国籍選手問題。
20歳ライスは裏切り者ではない。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto Press
posted2019/03/27 10:00
EURO2020予選のチェコ戦でイングランド代表デビューを果たしたライス。成長著しい20歳には強豪クラブも関心を寄せている。
国籍選択を強化策の一環として。
とはいえ、プレミアリーグはユース上がりの若手に優しい環境ではない。自らの意思でマンチェスター・シティを出て、ブンデスリーガのドルトムントで台頭したサンチョのように、新世代の海外移籍例が増えても不思議ではない。
実際、18歳のハドソン・オドイも、却下はされたが今冬チェルシーからバイエルンへの移籍を志願したばかり。トップレベルでの潜在能力開花が、国外のピッチで先に確認されるケースの増加も予想される状況となれば、代表関係者による若手へのアプローチを、これまでのように選手に「媚びた」と感情的に捉えるのではなく、チーム強化策の一環と割り切って理解すべきだ。
本人さえその気になれば、イングランドも選べた現役スターには、レアル・マドリー6年目のギャレス・ベイルがいる。
ウェールズを選択した当時、ベイルは「イングランドから直接のアプローチは何もなかった」と言っていた。代理人経由ではなく、直接的に本人への勧誘を行なっていれば、代表チーム変更の可能性もゼロではなかったと受け取れる発言だ。そう考えると、勧誘が奏功した最新例のライスにしても、アプローチを控えていたらU-16時代からのアイルランド代表キャリアが続いたように思われる。
選手のアイデンティティとは。
サウスゲイトの直接勧誘が成功し、ライスはイングランド代表を選択した。
選ばれなかったアイルランド国民は快く思わなかっただろう。
しかし、アイルランドのオニール前監督も、「私がイングランド代表の監督でも、やはり選手が決断を下す前の段階で話をすることを好んだ」と、極めて冷静に語っていた。
結局、複数国籍を持つ選手の代表選択は、個人としての「愛国心」や「忠誠心」の表れではなく、選手としてのアイデンティティの一部だと理解すべきだ。そうすれば、チームの強弱や国際ランキングの高低にかかわらず、A代表「公式戦」でプレーしてしまえば二度と変更できない「決心」を、素直に評価できるようになる。
イングランド指揮官にしても、就任当初は代表選手としての「情熱」に重きを置き、「去る者は追わず」的なメッセージを発信していたように思われた。
だが、その采配に見て取れる冷静さと大胆さが評判のサウスゲイトは、自らのスタンスを改める勇気も備えていた。そのことを、ライスへのアプローチで示した。