プレミアリーグの時間BACK NUMBER
イングランドの二重国籍選手問題。
20歳ライスは裏切り者ではない。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto Press
posted2019/03/27 10:00
EURO2020予選のチェコ戦でイングランド代表デビューを果たしたライス。成長著しい20歳には強豪クラブも関心を寄せている。
ライスへ向く批判の矛先。
しかしながら、実際にはA代表として公式戦に出場するまで、代表チームの変更は許されている。このFIFA規則上の公式戦に、ライスが3試合に出場した親善試合は含まれない。その曖昧さを責められるべきは、代表チームを思案した当人の態度ではなく、代表キャップ数などの対象になる国際親善試合の扱いのはずだ。にもかかわらず、とんでもない行動に出たかのように言われる選手には同情したくもなる。
二重国籍が許されない日本人である筆者が言っても説得力に欠けるだろうが、最も頭を悩ませるのは、選手自身だと思える。
再びライスを例にとれば、父方の祖父母の祖国アイルランドの代表選手として覚えた誇りと喜びは純粋なものだったはず。だが、同じことは母方の血筋であるイングランド代表に関しても言える。そのうえ、本人はロンドン南西部で生まれ育った。サッカー選手としても、チェルシーとウェストハムのアカデミーで育成されている。
“金銭面のメリット”を訝しむ声も。
ライスのテーマ曲に打ってつけの『アイリッシュ・ブラッド、イングリッシュ・ハート』を国内でヒットさせたのは、アイルランド移民の血を引く英国人シンガーのモリッシーだ。両国との絆を実感する国民は多いに違いない。
今はニューヨークに住む筆者の友人もアイルランド系の英国人。名門ケンブリッジ大学を出た彼は、明晰な頭脳と豊富な人脈を武器にイベント業界のプロとして活躍しているが、労働ビザ取得が比較的容易なことから、英国人ではなくアイルランド人としてアメリカに渡った。
同様にライスのようなサッカー界のプロが、国際大会で優勝を争える可能性といったキャリア上のメリットを含めて代表チームを選んだところで、当然の権利を活用したまでのことと言える。
巷には、ネームバリューで勝る代表を選ぶのは「スポンサー収入といった金銭面のメリットも計算に入れているから」と見る向きもいる。だが、損得勘定を批判するのであれば、外野も選手が代表にもたらし得るメリットの大小で態度を変えるべきではない。