オリンピックへの道BACK NUMBER
シャッター音まで気になる繊細さ……。
紀平梨花のメンタルが変貌した理由。
posted2019/03/19 11:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
快進撃。そう言ってよいだろう。
出場した6つの国際大会はすべて優勝。しかもグランプリシリーズ2戦、グランプリファイナルや四大陸選手権を含んでの成績だ。唯一、優勝ではなかった全日本選手権でも2位と表彰台に上がった。
高校1年生の紀平梨花はシニアに移った最初のシーズン、驚くほどの成長を見せながら駆け抜け、世界トップを争うスケーターの1人へと成長した。
その原動力となっているのは、トリプルアクセルである。
世界でも数名しか成功者のいない難度の高いジャンプを、ショートプログラムで跳び、フリーでは2つ組み入れ、成功させてきたのだ。
しかし紀平の良さは、トリプルアクセルだけにとどまらない。他の種類も含めたジャンプの質が高く、滑りにはスピード感があり、スピン、ステップでもレベルをきっちりとる。そしてファイブコンポーネンツ(演技構成点)でも高い評価を得られる。トータルで優れていることが、紀平の強さである。
出遅れてもフリーで巻き返す力。
出場してきた大会では、別の強みも見せてきた。ショートで出遅れたとしてもフリーで巻き返す力だ。NHK杯、四大陸選手権ともにショートは5位でのスタートになっての逆転優勝だった。
また四大陸選手権では、全日本選手権で苦しんだ靴の問題が解決せず、公式練習中に左手薬指亜脱臼の怪我を負った。その影響は小さくなく、ショートでトリプルアクセルに失敗する原因ともなった。
それでもフリーでは、跳び方を微調整し、1本目のトリプルアクセルを成功させた。
続く2本目は、自らの判断でダブルアクセルからのコンビネーションジャンプに切り替えた。状況を見極めた上での判断が逆転優勝をもたらしたが、そこにあった冷静さもまた、紀平の強さを印象づけた。