オリンピックへの道BACK NUMBER
シャッター音まで気になる繊細さ……。
紀平梨花のメンタルが変貌した理由。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2019/03/19 11:30
シニアでの1年目はGPファイナル、四大陸選手権など6度の優勝を飾った。勢いに乗る紀平梨花はどんな滑りを見せるか。
メンタルが強かったわけではない。
ただ、紀平はもとからメンタル面が強かったわけではない。
2016-2017シーズン、紀平はトリプルアクセルを成功させ、ジュニアグランプリファイナルにも出場した。その一方で、怪我の影響もあったとはいえ全日本ジュニア選手権は11位、世界ジュニア選手権出場はならなかった。
2017-2018シーズンは2年続けてジュニアグランプリファイナルに出場したほか、全日本選手権で3位になるなど、一段と成長した姿を見せた。しかし世界ジュニア選手権ではフリーでトリプルアクセルが2本とも抜けるなどして8位にとどまった。ここ一番で結果を出せなかった印象だ。
当時の紀平は「(演技中の)カメラのシャッター音が気になるんです」というくらい繊細な一面があり、集中を切らすこともあった。2017年夏の取材でも、「だいぶ慣れてきましたが……」と克服するには至ってない印象をうかがわせた。
つまり、緊張に強いわけではなかったのだ。
緊張すべきかどうかも分かるように。
だが今は違う。その変化について、自身ではこう捉える。
「試合を重ねてきて、気持ちのコントロールや持っていき方が固まってきた。それが試合で出せるようになってきたと思います。緊張した方がいいのか、しない方がいいのか、そういうことも全然分かっていなかったけれど、分かるようになってきて、コントロールがついたのが理由かなと思います」
また、様々なできごとを前向きに捉えられるようになったこと、アクシデントに対しても明るく向き合えるようになったことも成長の要因だ。
紀平がジュニアにいた頃、指導する濱田美栄コーチはこんなふうに語っていた。
「おっとりしているところがあります。ただ、素直。きちんと話が聞けて、受け止める素直さがある子です」
場数を踏むにしたがって伸びていくことができたのは、そんな素直さと、素直だからこそ備える吸収力にほかならない。