オリンピックへの道BACK NUMBER
走り高跳びで13年ぶり日本新記録。
実業団を断り海外で育った戸邉直人。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2019/02/11 10:00
日本人にとって鬼門だった走り高跳びで、メダルの現実味を帯びてきた戸邉直人。
実業団からの勧誘を断ってヨーロッパへ。
こうした決断の背景には、決められた練習メニューをこなすのではなく、選手自身が考えて競技に取り組む筑波大の環境があった。試行錯誤を繰り返す中で、やがてヨーロッパのトレーニング方法を学びたいという思いに駆られ、実行したのである。
その意志を、大学卒業後も貫いた。大学2年生のとき、日本選手権で初優勝を遂げると、4年時には2m28と自己ベストを更新。2m30台間近に迫った戸邉には当然、実業団からの勧誘があった。しかしそれを断ったのは、ヨーロッパを活動拠点とすることに重きを置くためだった。そして最高峰の大会であるダイヤモンドリーグに参戦するなどしながら、強化に取り組んだ。
そして、2014年には2m31を跳ぶなど何度も2m30台をマーク。たしかな地力の向上を見せ、2015年には世界選手権に出場した。
2016年のリオデジャネイロ五輪などでも活躍が期待されたが、怪我の影響などで記録は伸び悩んだ。
しかし昨年には、日本歴代2位となる2m32をマークして復活。そして今回の日本新記録となったのである。
探究心、行動力、高身長。
大学で体験した自身で考える環境が性に合ったのか、その後は筑波大学大学院で走り高跳びの研究に勤しむようになるなど、探究心は強い。「より高く」の思いから、実業団という安定した場所とは異なる道を選ぶ行動力もあった。
そして身長194cmという、日本の選手としては恵まれた体格を持つことも記録更新の要因の1つだろう。
こうした点を考えても、日本勢が苦しんできた走り高跳びで新たな道を切り開く期待が集まっている。あとは怪我なく、高いレベルで安定した記録を出し続け、その中で記録のベースを上げられるかが鍵を握る。