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大坂なおみが「感情の揺れ」を克服。
かつてお手本にしたプリスコバ超え。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2019/01/24 18:10
敗戦後も感情をあらわにせず、淡々とコートを去ったプリスコバ。しかし試合の中では大坂の方が冷静だった。
大坂の表情がはじめて崩れたシーン。
このゲーム、大坂にブレイクのチャンスが訪れた。
プリスコバがダブルフォールトを犯し、30-30。流れから見て、チャンスだ。ところが、次のポイントをアンフォーストエラーで失うと、初めて残念そうな表情をのぞかせた。ポジティブな光が失われ、表情にネガティブなものがのぞく。危ない。
案の定次のポイントもミスで失うと、大きく叫んで感情を爆発させた。
ブレイクの気配が漂った後の、危険な兆候だった。
続く第10ゲーム、0-15からプリスコバの打球がネットインして不運なポイントを奪われ、次のポイントもアンフォーストエラー。トリプルのゲームポイントを握られると、サーブを打つ前にラケットでシューズのソールをきつめに叩いた。
その効果なく、なんとラブゲームでこのゲームを失い、1セットオールとなってしまう。
わずか、6ポイントの間の感情の揺らぎが第2セットの流れを変えた。
“Silent Killer”の感情が乱れる。
そして勝負の分かれ目は、大坂のサービスゲームである第3セットの第2ゲームに訪れた。
30-30からプリスコバが先手を取り、ブレイクのチャンス。大坂はウィナーでしのぐが、次のポイントをアンフォーストエラーで失い、悲しそうな表情を浮かべてしまう。
危ない。
そう思ったが、バックハンドのウィナーで盛り返す。
ここからは一進一退。次のポイントでプリスコバは3度目のブレイクチャンスを握るが、大坂が逆襲しまたもデュース。
ここでプリスコバの感情に乱れが生じる。ラケットでコートを何度か叩いたのだ。
かつて、イギリスのメディアが彼女のことを“Silent Killer”と表現したのを読んだことがある。私はプリスコバを見ると、映画『ブレードランナー』(1982年版の方)に登場するレプリカントを思い出す。
感情を表さず、淡々と仕事を進めていくプロフェッショナル。そのプリスコバが乱れた。