セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
サウジの女性がクリロナを見た日。
伊スーパー杯開催地問題の果てに。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2019/01/23 10:30
イスラム圏において、女性だけでのスポーツ観戦はながらく不可能だった。この日は歴史的な一戦だったのだ。
キエッリーニの粋なコメント。
砂漠の独裁国家の町でユベントスとミランの選手たちを待っていたのは、予期していなかった熱烈歓迎ぶりだった。サッカーへの同じ熱量がサウジにもあったということ自体、カトリックの国イタリアから来た選手たちには驚くべきことだった。
試合前日会見でユベントス主将キエッリーニは「僅かな時間しかこの国を体感していないけれど」と断った上で朴訥と語った。
「正直に言いますが、イタリアから見てこの国のことをとても閉じた世界だと思っていました。だが、今はこの国のことをもっと知りたいと思っています。世界を変えることは私たちサッカー選手の役割じゃない。それでも、私の人生においてこの国に来れたことはきっと正しいことです。そう感じます」
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歴戦のベテランDFのコメントには、根本的価値観を異にするはずの国に初めて来てみて“目から鱗が落ちた”というニュアンスが含まれている。
サッカーも世界も変わっていく。
スタジアムを埋めた大観衆6万1000人のうち、女性の数は1万5000にも上ったという。試合は世界170カ国に中継された。
知己の伊紙特派員は現地取材で何人もの女性ユーベ・ファンに出会ったという。彼女らは口々にクリロナやディバラといったお気に入り選手の名を挙げた後、「この試合は私たちにとってずっと思い出になる」と感極まった。
スーパー杯の後、FIGCは6月のフランスW杯へ出場する女子イタリア代表の合宿をサウジアラビアで行う計画を進めていることを明らかにした。
サッカーも世界も変わっていく。いくつになっても世界は知らないことばかりで、知りたいことに満ちている。
今年のイタリア・スーパー杯は、少なくともサウジアラビアのサッカー界とキエッリーニに新しい扉を開かせた。
愛するミランはあえなく負けたにせよ、サルビーニ副首相もこの試合を観て世界の変化を目撃するべきだったのではないか。