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サウジの女性がクリロナを見た日。
伊スーパー杯開催地問題の果てに。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2019/01/23 10:30

サウジの女性がクリロナを見た日。伊スーパー杯開催地問題の果てに。<Number Web> photograph by AFLO

イスラム圏において、女性だけでのスポーツ観戦はながらく不可能だった。この日は歴史的な一戦だったのだ。

史上初めて男性の同伴なしで観戦できる試合。

 サウジアラビアをバカンス先に選ぶイタリア人はまずいない。おそらく他の西欧諸国でも同じではないかと思う。

 21世紀が始まって以来欧州サッカー界へオイルマネーが流入し、アラブの王族によるクラブ買収話は今や珍しくない。UAEやカタールへの航路も整備され、この冬もC・ロナウドを始め多くの選手たちが中東のリゾート地を休養先に選んだが、その目的地はドバイやドーハがほとんどで、家族や恋人をサウジに連れて行った人間は皆無だった。

 “個人の自由”を絶対視する西欧世界の人間にとって、今なお戒律に則った女性差別が横行するサウジの社会はまるで許容し難いものだからだ。

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 先の女性閣僚の過激発言も当然、国内に同意する層がある程度いると確信しているからこそ出てきたものだ。

 さらに、昨年秋の反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害事件によって、“サウジは言論統制どころか王族による恐怖政治を敷く独裁国家”というイメージが決定的になった。

 過去にリビアとカタールで開催された時には当時の国際関係上開催が問題視されたことはなかっただけに、政界から一斉批判を受けたリーグ機構のガエターノ・ミッチケ会長は躍起になって反論した。

「ミスリードされた報道が多いようだからはっきりと申し上げたい。我々のイタリア・スーパー杯は、史上初めてサウジの女性たちが男性の同伴なしで自由に観戦できる国際的なオフィシャルマッチです。歴史にはそう記されるでしょう」

綺麗事と外貨獲得の関係性。

 セリエAリーグ機構がサウジ側との開催合意を正式に発表したのは昨年6月のことだった。
向こう5年間で3回の開催権につき総額28億円近くが機構の金庫を潤し、出場チームにもそれぞれ350万ユーロの出場給が保証される。2009年から4度出向いた北京・上海開催で得たチャイナマネーを大幅に上回る額だ。

 ミッチケ会長は「もし合意前にカショギ氏殺害事件があったならサウジ開催にはゴーサインを出さなかった」とも発言しているが、FIGC(イタリアサッカー連盟)副会長も務める彼は、事件発覚後すぐにイタリア外務省や首都リヤドの大使館と密に連絡を取り、何が何でも開催成功にこぎ着けようと動いたことがわかっている。

 批判騒動の中で「スーパー杯ではなく(西欧世界の)人権をサウジへ持っていくべし」とまで言った政治家もいたが、現場のサッカー関係者たちはそんな綺麗事では腹がふくれないことを何より知っている。

 騒動はミッチケ会長による度重なる説明が功を奏し、「スーパー杯という一民間イベント事業に対してイデオロギーの押し付けではないか」という空気が生まれ、与党高官から「開催は数カ月前から決まっていたのだし、それより現実的にイタリア・サッカーの外貨獲得を喜ぶ方がいいのでは」という声が上がるようになって収束した。

【次ページ】 エリアは別でも、女性たちは笑顔だった。

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