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本塁打量産とキンブレル争奪戦。
リリースポイント地表151cmの脅威。 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2019/01/19 10:00

本塁打量産とキンブレル争奪戦。リリースポイント地表151cmの脅威。<Number Web> photograph by AFLO

2018年のMLBワールドシリーズ第1戦に登板したクレイグ・キンブレル。

本塁打量産打法に極めて有効。

 反面、リリースポイントの高い投手の速球被打率はかなり高い。代表的な存在はクレイトン・カーショー(6.21フィート)やジョン・グレイ(5.86フィート)で、あれほど傑出した投手でも、2018年の速球被打率は、前者が4割5分3厘、後者が3割8分9厘だった。

 MLB.comのビデオでは、野球評論家のトム・ヴァードゥッチが長い紐を使ってその理由を解説していた。理由はかなり単純。「上から投げ下ろされる速球」を、打者が下から迎え撃つのは比較的容易だが、「沈まずに伸びてくる速球」を打者が下から迎え撃とうとすると、バットがボールの下をくぐりがちになるというのだ。

 たしかに、キンブレルが空振りを奪うビデオを見ると、バットがボールの下をくぐっているケースが多い。そして彼の速球は、ストライクゾーンの高目いっぱいに決まるのが特徴だ。

 いいかえれば、キンブレルやヘイダーの投法は、近ごろ顕著な「本塁打量産打法」に対する強力な対抗兵器になっているのだ。

 なるほど、「打者の手元で浮き上がる高目のストライク」を打てるチームと打てないチームとでは、明白な差が出る。2018年のメッツやフィリーズは、高目の速球に対して2割そこそこの打率しか残せなかったが、ポストシーズンに進出したアストロズ、インディアンス、レッドソックス、カブスといった球団は、2割8分前後の高打率をあげていた。

MLBはルールで野球を調整する。

 このトレンドはいつまでつづくのだろうか。1960年代前半、打高投低の傾向が行き過ぎたときは、マウンドを高くする対策が取られた。'90年代中盤、長期ストライキの影響で球場から客足が離れたときは、左中間や右中間のふくらみが削られ、よく飛ぶ球が使われるようになった。本塁打の乱舞こそが手っ取り早い客寄せと考えられたからだ。

 では、今回の「本塁打量産とリリースポイントの低い投手の逆襲」という綱引き現象は、つぎにどのような状況を招くのだろうか。

【次ページ】 大物抑え投手の年俸としては妥当。

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クレイグ・キンブレル

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