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新潟の球数制限がもたらす次の問題。
トーナメント戦で投手育成は可能か。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/01/09 07:00
甲子園で勝ち上がったチームのエースの球数を数えるのはもはや恒例になった。改革の機運は高まっている。
出番がなかった2番手投手の目が輝く。
もっとも、球数制限制度の賛否はある。
相手投手を制限によって引きずり下ろすための待球作戦や、ファールで粘るチームは出てくるだろう。野球界には、いまだに「戦略」と「スポーツマンシップ」を理解できていない指導者が多い。敬遠は作戦の1つとして認めつつ、「5敬遠」に観衆やメディアが激怒した1992年の出来事を思い返せば、簡単に想像がつくはずだ。
とはいえ実際問題、球数制限を実施した時にどうなるかという議論は机上の空論に過ぎない。
なぜなら、高校野球界で球数制限を経験したことがあるのはU18侍ジャパンくらいで、誰も知らないのというのが現状だからだ。あれこれ言うよりも、まず地方の信念をもった連盟がスタートを切ったことから学ぶことが大事だろう。今後は球数制限の実際の影響について議論すべきだ。
個人的には、エース依存で事実上出番がなかった2番手以降の投手たちの表情が楽しみである。限界を超えてもマウンドでエースが苦しんでいる姿を横で見ながら、出番をもらえなかった選手たち。エースが身体を痛めているとしたら、控え投手は心が傷ついていたのだ。
ドジャースや広島で活躍した黒田博樹のように、高校時代は3番手投手に甘んじた屈辱を力に変えた人生もあるが、決して大勢ではない。日本野球界の「補欠作り」が改められることを考えると、それだけでも楽しみでならない。
トーナメントではエースしか出せない。
球数制限が一般化したとき、2番手以降の投手を育成していくための環境づくりが大切になる。
現行の高校野球のシステムでは、複数の投手を育てるのが困難な状況にある。
秋春夏とほとんどの大会がトーナメント制の「一発勝負」で行われている限り、複数の投手を育成していくのは簡単ではない。
何試合も勝ち上がることを想定していない学校は、負けたら終わりなのでエースを出さざるを得ない。そしてエースが負ければ公式戦は終わり、エース以外の投手が実戦を経験する場は皆無に等しいのだ。