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イニエスタの存在がJに与えた恩恵。
謙虚で自然体のスター、2年めへ。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2019/01/04 11:00
Jリーグでイニエスタがプレーすることの効果の大きさを想像しきれていた人などいるのだろうか。
自然に醸成された謙虚さ、素朴さ。
イニエスタが教えてくれたのは、スペクタクルを生み出すための基礎技術の重要性だけではない。スペクタクルとは対極に位置する「効率性」がいかに大切かも、彼は日本人Jリーガーたちに身をもって説いてくれた。ともすればアップテンポに、一本調子になりがちなサッカーに、「止まる勇気」や「緩急のメリハリ」というエッセンスを、ポトリと一滴垂らしてくれてもいる。
けれどその教えは、竹刀を持った体育教官のように高圧的ではなかった。バルサでクラブ史上最多の32ものタイトルを手にしたことなどおくびにも出さず、日本のサッカーと選手を心からリスペクトし、常にチームメイトと同じ目線で、ともに成長していこうという謙虚な姿勢で戦う──。
これだけの実績があるプレーヤーが、普通は簡単にできることではない。
ただ、イニエスタのこうした謙虚さや素朴さ、献身性は、意図して作り出されたものではない。意識せず、自然に醸成されたものだからこそ、多くの人がその人間性に魅了されるのだ。
スペインで、アウェーのサポーターからも無条件で拍手を送られたイニエスタは、遠く日本の地でもごくごく自然に受け入れられた。いやむしろ、そのキャラクターは日本人の特性、気質によりフィットしていたのかもしれない。
「華がない」と言われたのが嘘のよう。
一方で、この謙虚な男は“メディアスター”でもあった。SNSでは家族と日本での生活をエンジョイする写真が頻繁にアップデートされ、それをキャッチアップしようとメディアが必死に追いかけ、ネットに流す。その実力は十分に認めながらも、「華がない」と雑誌の表紙に使うことさえ躊躇われた10年ほど前が嘘のようだ。
日本の生活環境にすんなり溶け込んだことも含め、イニエスタのJリーグ参戦1年目は、総じてポジティブに捉えていいはずだ。
「バルサ化」を掲げ、大きな転換期を迎えた神戸は残留争いにも巻き込まれたが、それでも変革のうねりの中で、なんとかJ1に踏み止まったことに価値がある。シーズン途中にペップ・グアルディオラの師とも言われるフアン・マヌエル・リージョを指揮官に迎え、終盤戦では来シーズンに向けての方向性も明確に打ち出されている。
すでにダビド・ビジャや山口蛍の入団も決まり、2019年シーズンはいよいよJ1での優勝争い、そしてACL出場権獲得が現実味を帯びるが、新戦力のビッグネーム以上に期待したいのは、この約半年の間にイニエスタの薫陶を受けて成長を遂げた、古橋亨梧や郷家友太といった若手のさらなる進化だ。