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イニエスタの存在がJに与えた恩恵。
謙虚で自然体のスター、2年めへ。
posted2019/01/04 11:00
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
外付けハードディスクに溜まった録画番組を、ごっそり消していく。
年末の大掃除とばかりに、えいやっと消去ボタンを押すと、回復した容量の分だけ自分の身体も軽くなったような気がする。
サッカー番組なら、シーズン単位だ。基本的に、前のシーズンの試合は消していく。もちろん、なかには消すべきか、残すべきか迷う試合もある。
そのひとつが、2017-18シーズンのラ・リーガ最終節、バルセロナ対レアル・ソシエダの一戦だった。
すでにバルサの国内2冠は決まっていて、しかも前節に伏兵レバンテに敗れたことで、無敗優勝の望みも絶たれていた。一方のソシエダも、最終節を前に1部残留を決めている。つまりは消化試合だ。
けれど、ただの消化試合ではなかった。それは、アンドレス・イニエスタのバルサでの最後の試合だった。リモコンを操作する手がピタリと止まる。
イニエスタのバルサでの22年間は、始まりも終わりも涙だった。
12歳の時、故郷のフエンテアルビージャを出て、単身ラ・マシア(バルサの下部組織寮)に入寮したその日から極度のホームシックにかかった色白の少年は、来る日も来る日もひとり涙に暮れていた。心配した両親は2週間おきにラ・マシアを訪れたが、別れ際がまたひと騒動で、いつまでも泣きじゃくるアンドレス少年は、ラ・マシアのちょっとした名物になっていたという。
バルサでの最終戦も涙だった。
それから22年後。『ムンド・デポルティーボ』紙によれば7917日後の2018年5月20日、ソシエダとの最後の試合を終えたイニエスタは、カンプノウのスポットライトの中にいた。消化試合にもかかわらず集まった8万人を超えるファンが見つめる中、惜別のセレモニーで彼は、こう言って涙を流すのだ。
「僕にとって世界一のクラブで、素晴らしい22年間を過ごせたことを誇りに思います。僕はひとりの子どもとしてここへ来て、ひとりの男としてここを出て行きます。何度も何度も、僕に残るよう求めてくれてありがとう。みんなはいつまでも僕の心の中にいます」
チームメイトに胴上げされ、手を振りながらスタジアムを一周し、静かに打ち上げ花火を見つめる姿を見て、いや、セレモニーが終わってもひとり無人のピッチに座り、物思いに耽るイニエスタの背中を見て、彼がここで燃え尽きてしまったように感じたのは、おそらく私だけではないと思う。