マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
熊本西高校のいたましい事件に思う。
バッター達に近年起こっていた変化。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/11/23 16:30
時速140kmで飛んで来る硬球は、人の命を奪う威力を持っている。この事実は決して忘れてはならない。
「頭に来たら避ける」では危ない。
バッターが投球を避けなくなった…と思うようになってから、折に触れ、筆者なりに周囲の人たちにそんなアラームを発してはきた。
今のボール、もっとちゃんと避けないと危ないよね。
関係者の反応は一様に鈍かった。中には無反応の人すらあった。
「頭の近くに来たら、ちゃんと避けますから」
選手たちの反応は、誰もがこんな感じだった。
いざというときは、ちゃんとやりますから、僕は……。
事がなんであれ、こういう“感覚”ほどアテにならないものはない。いざというときにちゃんとやるヤツは、いつもちゃんとやっているものだ。
私自身が、これで何度も痛い目に遭っている。
140キロで吹っ飛んでくるものは、こっちの命を奪いかねない“凶器”だ。
そのことが、今の選手自身の認識の中にどれほど存在しようか。また、指導者たちの指導の中に、どれほど存在しようか。
文章を書く仕事をしながら、そして今回のような「危険」に薄々気がついていながら、それを発信しなかったことを、今さらながら恥ずかしく思い、また深く悔いてもいる。
思い出した話がある。
この出来事を、事故とは呼べない。
以前、野球の人を介して知り合った交通課のおまわりさんが、こんなことを教えてくれた。
「私の管内では、死亡事故を起こした車に車高の高いワゴン車が多いんです。やっぱり、頑丈そうな車に乗ると、人間、気が大きくなるんでしょうかねぇ」
守られている安心感が、警戒心を薄れさせてしまう。
せっかくの安全対策が、そんな“逆効果”を生んでしまっているという矛盾、そして現実があることを、今度の事件は、私たちに知らせてくれているのではないだろうか。
今度の“事件”?
もちろん「事件」であろう。今回の悲しい出来事を「事故」などと、他人ごとのように捉えていたら、同じような事件が必ず繰り返される。
亡くなられた選手のご冥福をお祈りするとともに、そうならないことを切に祈りたい。