マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
熊本西高校のいたましい事件に思う。
バッター達に近年起こっていた変化。
posted2018/11/23 16:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
漠然とした不安が、現実になってしまった。
18日、熊本県立熊本西高校の硬式野球部員が、練習試合の最中に頭に投球が当たり、翌日、外傷性くも膜下出血が原因で亡くなった。
新聞の報道によると、試合中のデッドボールがヘルメットのガードのない後頭部に当たり、その直後、倒れて意識を失ったという。
一報を聞いて、ウワッ! という驚きと同時に、起こってしまったか……という妙な気持ちが頭の中に浮かんだものだ。
いつかは、こんなことになるんじゃないか……。そんな良くない予感が、もうだいぶ前からあった。
硬式野球である以上、どうしても避けられない、確率的に起こってしまうことの1つだとは思っていた。しかしその確率は、本当はもっと下げられたはずだったのかもしれない。
そんな悔恨の思いで、近年のアマチュア野球界の雰囲気として気になっていたことを、ここで書かせていただきたい。
当然ながら、特定の個人や組織を責めることがその目的でないことをご理解いただければと思う。
ボールを避けなくなったバッターたち。
バッターがボールを避けなくなった。
そんな“現象”が野球界、とりわけ、高校、大学の硬式野球の現場で間違いなく広まりつつあったのは、今から何年ほど前だろう。
バッターが、投手側のスパイクの甲を自分の打ったファールで傷めないようにサポートを施すようになり、さらに、投手側のヒジをデッドボールで痛めないようにやはりサポートを施すようになって、バッターの“安全性”が格段に保障されるようになった頃から、バッターが体の近くを襲う投球を避けなくなった。
思わず、アッ! と声をあげてしまう場面が、何度もあった。
ヒジを直撃した140キロの速球を、バッターが避けない。
ボールはポトンと足元に落ちて、避けなかったからデッドボールにはならなかったが、バットを構えた時のヒジと顔の位置なんて紙一重だ。あの速球にちょっと勢いがあったら、顔面直撃だって十分あり得る。強がったように平然としていたバッターの表情を、私は今でも覚えている。
右打者の足元を狙った速球が抜けて、バッターの肩口付近を襲う。一瞬、バッターは体を捕手側にねじり、背中を壁にするようにして投球を受け止めた。
背中に当たると息が詰まるのは、私も経験でよくわかる。
そのバッターも、体をよじるようにして苦しがっていたが、私は逆に、背中でよかったじゃないか……と不幸中の幸いにホッとしたものだった。
投球のすっぽ抜け方がもうちょっとひどかったら、バッターの首かヘルメットが隠してくれていない後頭部へ直撃だったろう。
今回の悲劇も、もしかしたら、このようなストーリーで起こったものだったのかもしれない。