“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「本当はFWをやりたかったけど」
ある高校生GKの怪我と敗北と友の涙。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/11/11 08:00
帝京長岡高校に敗北直後の日本文理の選手たち。松葉杖が相澤、背番号3が千葉。
「『二刀流』でやってやろうと」
「言われた時は急過ぎたのでびっくりしました。まさかそうなると思っていなかったので……。でも、ピーターもそうやってGKに転身したし、僕も『それがチームのためになるのなら、貢献したい』と思えたので」
千葉はフィールド転向を受け入れ、直後のプリンスリーグ北信越第8節の帝京長岡戦から右サイドバックとしてプレーした。
「最初は何をやって良いのか分からなくて、周りに助けてもらっていた。でも自分は右サイドバックとして責任を持ってやろうと思ってもいたので。でも、大学でもGKとしてサッカーを続けたいと思ってもいたので、『二刀流』でやっていこうと覚悟を決めました」
この千葉の姿を、相澤は自分の時と重ね合わせてずっと見つめていたのである。
「自分がそうだったように、千葉がフィールド(プレイヤー)に変わる時は相当苦しかったと思う。自分にとって最高のライバルがフィールドになってしまったことは少し寂しい気持ちもあったけど、千葉の姿を見て、本当に刺激になった」
この千葉の転向から3カ月後。怪我をした相澤に代わり、北越戦のゴールマウスには再び千葉が立つこととなった。
「背番号3の正GK」として。
「3カ月ぶりのGKで、正直最初はキャッチングやクロス対応などに怖さもあった。でも、ピーターが悔しい想いをしているのは分かっているので、あいつのためにもGKとしてやりきろうと思った」(千葉)
高校選手権予選が始まると、千葉はGKとしての感覚を取り戻し、右サイドバック時代に付けていた背番号をそのまま引き継ぐ形で、「背番号3の正GK」として、初戦から無失点試合を続け、準決勝の帝京長岡戦を迎えるまでに至った。
「ピーターを選手権に連れて行く」一心で千葉はゴールマウスの前に立ったが、だがこの試合の結果は3失点。この時点で、2人の高校サッカーは幕を閉じたのだ。
ピッチ上でうずくまる千葉に、相澤がゆっくりと歩み寄る。
千葉から出たある言葉に、思わず相澤の目から涙が溢れ出た。
「千葉が『本当にごめん』と謝ってきたんですよ。その言葉が本当に刺さったというか……。フィールドに転向すること、そこからまたGKに戻ってまで……。
元はと言えばすべて僕が関わっているんです。
千葉がGKに急遽戻ったのも怪我をしてしまった僕のせいだし。僕のせいで千葉が一番苦しい想いをしてきたのに、あいつは僕に文句ひとつ言わずにプレーしてて。『俺が失点をしなければ』とずっと言っていて……。もう僕も『俺の方こそ本当にごめん』とずっと言っていました。心から『謝らせてごめん』と思ったので」