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本屋大賞ノンフィクション賞受賞!
角幡唯介の次の冒険の地はどこだ?
text by
藤森三奈(Number編集部)Mina Fujimori
photograph byTakuya Sugiyama
posted2018/11/08 16:30
受賞発表会での角幡唯介さん。この副賞の賞金が、次なる大冒険の資金となる!
貯めていた食料を白熊に食べられる。
手作りのソリ、数カ月分の燃料と、自分と犬の食料、それらもバカにならない。
今回の“極夜(日の昇らない北極の4カ月間のこと)”の旅は、自身が「呪われた旅」というほどに次から次へと予期せぬことが起きた。
一番大きなハプニングが、前年の氷の溶けている春から夏に、カヌーを使って遠い目的地まで食料を無人小屋に運んでおいたにもかかわらず、それが白熊にすべて食べられてしまったことである。
「あれで旅が全部ひっくりかえっちゃいましたからね。あはは」
今となっては笑い話のようだが、作品の中でここは最も緊迫した場面だ。時間とお金が一気に無駄になってしまったわけだ。彼の落胆は日本でヌクヌク生活している我々には到底想像できない。
本屋大賞の賞金は冒険資金に。
「本屋大賞」の副賞はありがたいことに100万円。これは角幡唯介がこれからする冒険のためにも大切な資金源となる。
「賞金はまずはマッサージチェアに使いたい。でも調べてみたら最近はずいぶん安いものも出ているので、3万円くらいのものを買って、残りは次の遠征費に使いたい」と言う。
角幡唯介、42歳。体力はここから落ちていく。
「僕には、自分の内側から湧き出てくるものを形として残したいという気持ちがあります。そこには手応えのあるもの、本なら『書けた』と自分が思うものを世に出したい。
僕の場合は探検という身体行為がつきものですから、肉体的な制限を常に考えているんです。いつこういうことができなくなるのか、今が一番の体力のピークなんじゃないかと。経験とともに感受性が高まってこないと、湧き出るものも吐き出せません。感受性の高まりと経験値の高さがいい具合に高まってくるのは、30代後半から40代前半だろうなとずっと思っていました。だからその時期に一番やりたいことをやると意識していました」