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職人アニメーター西尾鉄也が語る、
「人の身体のかっこよさを描くこと」

posted2018/11/11 10:00

 
職人アニメーター西尾鉄也が語る、「人の身体のかっこよさを描くこと」<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

人の体が動くとはどういうことか、アニメーターほど真剣に考えている職業はどれほどあるだろうか。

text by

宮田文久

宮田文久Fumihisa Miyata

PROFILE

photograph by

Tadashi Shirasawa

 躍動する人間の身体を、アニメーションで描く――。

 その道の第一人者にして、尋常でないこだわりを持つアニメーターがいる。その名を、西尾鉄也。キャラクターデザイン・作画監督を務めた代表作『NINKU-忍空-』のほか、『NARUTO-ナルト-』といった人気作品にも参加。現代日本のアニメーション界を背負って立つひとりである。伝説的なアクションシーンも数多い。

 アスリートの身体をどう伝えるかを日々考える編集部は、ぜひ話を伺いたいと、インタビューという“異種格闘技戦”を申し込んだ。稀代のアニメーターが、意外なスポーツ好きの一面も覗かせながら語ってくれた、「人の身体のかっこよさを描くこと」の奥深さとは――!?

――いきなりのインタビューのお願い、お受けいただいてありがとうございます!

「スポーツメディアさんからの取材なんて初めてですよ!(笑) でも、普段とは違うお話ができるんじゃないかと思って、受けさせていただきました」

――西尾さんにとって、スポーツとはどういう存在なのでしょうか? 少年時代は、水島新司などのスポーツ漫画がお好きだったようですが……?

「はい。ただ、漫画から入ったぶん、小学生のころ、友人のお父さんに連れられて、初めてリアルなスポーツ――ナゴヤ球場へプロ野球の観戦に連れて行ってもらったときは、カルチャーショックを受けました。野球場で試合を観ると、『ピッチャー投げた! ストライーク!』みたいなフキダシにある実況が聞こえないんだ、と(笑)。

 それでもスポーツは観続けていたし、若い頃は大好きだったんですよ。特に'90年代、自分が20代から30代にかけての若い頃は、プロ野球、高校野球、あとF1。でも、ある理由で、Numberさんには恐縮なんですが、あまり観なくなってしまって……」

――とおっしゃいますと?

「僕が応援するチームや選手は、なぜか必ず負けてしまうんですよ(笑)。先ほどお伝えしたように名古屋の某球団のファンだったんですが、語り草となっている10.8でも負けてしまいましたし、中嶋悟の引退レースも結果は出ませんでしたし……。

『俺が応援すると勝てない!』と思って、熱を入れていたぶん疲れてしまって(笑)。最近も、平昌の冬季五輪では、女子フィギュアスケートのメドベデワを応援していたんですが、ザギトワに金メダルをとられてしまいましたから」

――それはファンとしては辛いものがありますね(笑)。

「でも、過去の名勝負のようなものは、いまでも書籍やDVDがあると手にとってしまいます。『江夏の21球』だとか、巨人が1979年にやった『地獄の伊東キャンプ』だとか(笑)」

――なるほど(笑)。そんな西尾さんは、人間の身体を描くとき、どんなことを考えているのでしょうか。

「そもそも、アニメーションで”リアルな身体を描く“というのは、ものすごく難しいことなんです。現実の人間の身体には、黒い輪郭線なんてありませんから。スプリンターの波打つ太もも、あの皮膚一枚を隔てた筋肉の躍動を表現するというのは、困難の極みです。線をたくさん描き込めば表現できるのかもしれませんが、それだとギャグっぽくなってしまって、シリアスなシーンにふさわしくない。

 板前さんにとっての卵焼きのように、アニメーターはこれが描ければ一人前、という動きがあります。歩く、走る、振り向く、ですね。でも、これがまた、いつまでたっても難しい。

 機械的に、何の感情もなく走っているならまだしも、嬉しくて走っている、足を怪我している、あるいは、足を怪我していても嬉しくて走っちゃっているとか……(笑)。同じシチュエーションなんてあった試しがないし、ラーメン屋さんが毎日のスープの味が安定しないと言うように、僕もいまでも頭を悩ませています」

――そんなに難しいことなのですね。それでも描くために、何か意識している事はあるのでしょうか。

「そうですね、ひとつには、人間の動きの“あるある感”を入れ込むことですね」

【次ページ】 絵コンテにない動きを忍び込ませる。

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